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言葉の定義をしっかり覚える
最も基本的な部分になります。言葉の定義をしっかり把握していない、もしくは、職員一人一人の言葉の意味の捉え方が異なる場合にとても困ってしまいます。「私はこうだと思っていた」「自分は、こう思っていたので、こうしました」では、介護職員の行動がバラバラになってしまいます。
会社やチームは"組織"ですが、言葉の定義一つでただの"烏合の衆"に堕落します。同じ目的を目指していない者同士は、協力・助け合うことができません。
『生活』とは「生きる」「暮らし」「生計」
ケアプラン第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』にある、「利用者および家族の生活に対する意向」の『生活』の部分です。『生活』という言葉が、あまりにも当たり前すぎてその意味を考える方はとても少ないかと思います。しかし『生活』の意味はとても難しく、様々な意味合いを有していますので職員全員でしっかり『生活』の定義を立て、断言しておく必要があります。
『生活』とは、広辞苑(第五版)によれば「生存して活動すること、生きながらえること」「世の中で暮らしてゆくこと」とあります。単純に「暮らし」という意味だけではありません。
世の中で暮らすということは「生計」の意味もあります。「生きること」は「命」や「人生」と言い換えることや「一生涯」などと言い換えることもできます。様々な意味合いを持った言葉であること、再確認しておきましょう。
『意向』とは「心の向かうところ」
ケアプラン第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』にある、「利用者および家族の生活に対する意向」の『意向』の部分です。『意向』とは「心の向かうところ」を意味します。向かう先が今ここなのかもしれませんし、もっと違うところなのかもしれません。どこに向かいたいのかは、利用者様本人やご家族としっかり話し合わなければなりません。最も重要な部分です。
「心の向かうところ」をわかりやすく言い換えると「目的地」ということになります。「目的地」をしっかり把握し介護職員みんなで共有しておくことで、迷うことなくその「目的地」へ歩むサポートができるようになります。
『総合的』とは「一つにまとめること」
ケアプラン第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』にある、「総合的な援助の方針」の『総合的』の部分です。『総合的』とは「別々のものを一つにまとめた様」という意味があります。例えば、「外出時はすぐそばで見守り」「動線にものを置かない」「飲み物にとろみをつける」この3つを総合すると「安全に」ということになるでしょうか。
別々であるものを別々のままに表現すると「具体的」な表現をすることができます。しかし別々のものをまとめて表現すると「抽象的」で曖昧な言葉でしか表現できません。
「訪問介護」「デイサービス」などをまとめると「居宅介護」といったように、それぞれが異なる介護サービスであっても、「居宅介護」という言葉ではその違いを表現できないのです。
『方針』とは「行動の方向」
ケアプラン第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』にある、「総合的な援助の方針」の『方針』の部分です。『方針』とは「どのように考え、どのように行動するかの方向」を意味します。ケアプラン第2表『居宅(施設)サービス計画書(2)』で決める「目標」や「ニーズ(ゴール)」に到達するための拠り所とするものです。
例えば砂漠などのように、なんの拠り所もない道を歩く際には、「方位磁針」「羅針盤」「コンパス」といった道具を拠り所に旅をします。地図の上側は必ず北側ですし、ナビにも「コンパス」が表示されています。『方針』とは、行動をするための拠り所、介護職員全員の「コンパス」になります。
「利用者および家族の生活に対する意向」は人生の目的地
言葉の定義を再確認した上で、「利用者および家族の生活に対する意向」の具体的な書き方を考えていきます。「利用者および家族の生活に対する意向」とは「人生の目的地」です。
利用者様本人とご家族が、頭に思い浮かべた自分の望む生き方を言葉に変えたものが「利用者および家族の生活に対する意向」になります。
具体的には、誰が誰と、どこで、どんな生活をしているのか。どんな道具を使って、どのような暮らしをしているのか。家族や社会との関わりはどのように希望しているのか。また何を残していきたいのか。そういった、頭に思い浮かぶ理想や未来像を言葉に変えるのです。
人生の目的地(ビジョン/理想や未来像)
- 誰が
- 誰と
- どこで
- どんな(道具・生計)
- 関係性(家族・社会)
- 残していきたいもの
具体的なサービスを記載する場所ではない
「利用者および家族の生活に対する意向」は「人生の目的地」という理想や未来像を頭に思い浮かべ、文章にする場所になります。そのため、個別具体的なサービス内容を記載する場所ではありません。
個別具体的なサービスを記載する場所は、ケアプラン第2表『居宅(施設)サービス計画書(2)』。具体的な「目標」であったり「ニーズ(ゴール)」なども、ケアプラン第2表に記載します。
「利用者および家族の生活に対する意向」はケアプラン第2表の基礎になる
「利用者および家族の生活に対する意向」に書いた「人生の目的地」と現状とのギャップが「ニーズ」という課題であり、ゴールと呼び変えることもできます。
「利用者および家族の生活に対する意向」はケアプラン第2表の基礎になるもの。言い換えると、ケアプラン第2表「ニーズ」を達成すればするほど「人生の目的地」が具現化されるものでなければなりません。
しっかり利用者様本人やご家族から「利用者および家族の生活に対する意向」を聞いていなければ、そもそも、良いケアプラン第2表「ニーズ」を作ることができません。
「利用者および家族の生活に対する意向」は介護職員にとっての「ミッション(使命)」になる
介護職員は利用者様の生活をサポートするためにいます。利用者様の人生に寄り添い、日常生活動作、家事、健康の管理、社会活動の援助などを行います。向かう先はもちろん「利用者および家族の生活に対する意向」に書いた「人生の目的地」です。
利用者様一人ひとりが「人生の目的地」へしっかり向かうことができるようにすることが、介護職員の「ミッション(使命)」だということになります。
「総合的な援助の方針」は介護職員の行動方針
言葉の定義を再確認した上で「総合的な援助の方針」の具体的な書き方を考えていきます。「総合的な援助の方針」には、利用者様一人ひとりに合わせ「どのように考え、どのように介護サービスを提供していくか」の「方向性」をひとまとめに記載する部分になります。
「どのように」なので主に、品詞の「名詞」や「形容動詞」を使って、曖昧に、抽象的に記載します。以下に、介護に利用できる「名詞」「形容動詞」を記載しておきます。
名詞・形容動詞(世間)
- 社交的
- 社会的
- 保守的
- 経済的
- オーソドックス
- スタイリッシュ
- 伝統的
- 革新的
- 平和的
- 平凡
名詞・形容動詞(心情)
- 安らか
- 静か
- 快爽
- 情熱的
- 意欲的
- 気さく
- 気楽
- 気軽
- 物柔らか
- 朗らか
- 爽やか
- 幸福
- 楽しく
- 嬉しく
名詞・形容動詞(性格)
- エネルギッシュ
- ユーモラス
- 実証的
- 実践的
- 実際的
- 遊戯的
- 冷静
- 活動的
- 健やか・健康的
- 生き生き
- 率直・正直
- 家族的
- 柔和
- 親切
- 人笑わせ
- 誠実
名詞・形容動詞(魅力)
- 可愛らしく
- エレガント
- コミカル
- 刺激的
- 優雅
- 花やか
- 若やか
- 賑やか
- 身綺麗
- 美しく
- 上品
- 異国的
- 豪華
- 女性らしく・男性らしく
- おしゃれ
- 古風な
- 雰囲気ある
名詞・形容動詞(態度)
- フレンドリー
- 積極的
- 和やか
- 素直
- 紳士的
- 能動的
- 自主的
- 自発的
- 衛生的
- 謙虚
- 即興的
- 即物的
- 大雑把
- 能率的
- 厳しく
- 真面目
名詞・形容動詞(外見)
- なだらか
- カジュアル
- 装飾的
- しなやか
- 軽やか
- 柔らか
- カラフル
- スマート
名詞・形容動詞(評価)
- 無難
- 無駄
- 公平
- 公明
- 公正
- 最適
- 手頃
- 適任
- 適度
- 適正
- 安上がり
- 風変わり
- 人並み
名詞・形容動詞(性質)
- 力強く
- 単純・シンプル
- 直接的
- スポーティ
- 専門的
- 物質的
- 精神的
- 統一的
- 多角的
- 補助的
- 規則的
- 重点的
- 開放的
- 間接的
- 効果的
- 家庭的
- 創造的
- 本質的
- スリリング
- 組織的・体型的
- すらすらと
名詞・形容動詞(時間)
- スピーディ
- ゆっくり
- 速急
- 的確
- テンポ早く
名詞・形容動詞(程度)
- リスキー
- 豊か
- 的確
- 部分的
- 予備的
- 細やか
- 優先的
- 印象的
- 確実な
- 徹底的・集中的
- 簡単な
- 合理的
- ハイレベル
- 曖昧に
- 新鮮な
- 深め
- 軽め
- 細心
- 浅め
- 努力
名詞・形容動詞(関係)
- 対等
- 同等
- 親身
- 助け合い
- 信頼・信用
名詞・形容動詞(思考)
- 科学的
- 理想的
- 気取らず・ざっくばらん
- 論理的
- 帰納的
- 第一義的
- 系統的
- 統計的
- 肯定的
- 複眼的
- 計画的
- 論証的
- 論理的
- 道徳的
- 質的
- 財政的
- 事前的
- 事後的
- 的確
- 発展的
- 建設的
- 探求
名詞・形容動詞(状態)
- 安定
- 安静
- 安穏
- ゆるめ
- 万全
- 良好
- 快適
- 安全・安固
名詞・形容動詞(概念)
- 主観的
- 客観的
- 人的
- 人道的
- 写実的
- 創造的
- 効率的
- 化学的
- 包括的
- 哲学的
- 大局的
- 広やか
- 広範
- 恒久的
- 教育的
- 斬新
- 文化的
- 機能的
- 本質的
- 潜在的
- 抜本的
- 一元的
介護サービスをひとまとめに表現する=1単語・1文とは限らない
「目標」や「ゴール」を目指した歩む道のりでは、拠り所になるコンパスを使って進んでいきます。しかし実際の「コンパス」は北を指し示すだけの道具です。そのため、拠り所をもう少し用意する必要があります。
「どのように」進んでいけば「目標」や「ゴール」にたどり着けるのか「人生の目的地」へは「どのように」進めば理想に近づけるのかを考えるのです。
例えば、「安全に」「ゆっくり」「確実に」「経済的に」「賑やかに」「大雑把に」「カジュアルに」「最適に」といったようにです。8つの単語を使っていますが、これらの単語は共存することができます。全て合わせても矛盾することはありません。
ケアプラン第2表は、拠り所である「総合的な援助の方針」に矛盾しない内容に作ることになります。8つに矛盾しない「ニーズ(ゴール)」「目標」「サービス内容」であって「利用者および家族の生活に対する意向」に近づけることのできるものにするのです。
優先順位を決める
上の例では「安全に」「ゆっくり」「確実に」「経済的に」「賑やかに」「大雑把に」「カジュアルに」「最適に」といった8つの「総合的な援助の方針」を決めました。もしこのような旅や人生にできるのであれば、力を抜いたとても楽しそうな人生になるでしょう。安全に配慮され、ゆっくり生活でき、無理をすることなく、確実に理想の未来へ近づいていくことができます。
また金銭的にも配慮され、家族や大切な人たちとワイワイガヤガヤ生きていけそうです。しかし「賑やかに」なればなんでもいいわけではありません。「賑やかに」するために考え出された介護サービスが、危険を伴うものであったらどうするのでしょうか? もし、8つの「総合的な援助の方針」がまったく同じ利用者様がいても、心身状況や理想の未来像によって優先順位が異なるのです。
例えば90代の身体状態が重度の利用者様と60代の身体が元気な認知症の利用者様がいるとします。8つの「総合的な援助の方針」を立てれば、狙い通り「賑やかに」なることが予想されます。しかし、足腰がしっかり60代であれば安全にできることでも、歩行できない90代では多くのことが安全にできません。
この場合、90代の身体状態が重度の利用者様の優先順位第1位に「安全」を掲げておけば、「賑やかに」にするサービスが、60代に比べて保守的なものに変わります。一方60代であれば元気なので、優先順位第1位に「最適に」を掲げておくといいかもしれません。そうすれば「賑やかに」にするサービスが90代に対するサービスよりもほんの少し、活発な内容に変わると思います。
優先順位を決めておくと利用者様の望みや心身状況に合わせ、それぞれに適切な介護サービスの提供ができるようになります。介護職員同士の意見のぶつかり合いや会議などにおいても、深く質の高い話し合いができるようになります。
優良企業の行動方針を参考にする
企業における「ニーズ(ゴール)」「目標」達成のための拠り所(コンパス)と、利用者様への介護における「ニーズ(ゴール)」「目標」達成のための拠り所(コンパス)は、多少異なる部分があります。
しかし、そこで働く人の拠り所(コンパス)である点においては同じ。多少文面は変えなければなりませんが参考にすることができます。
ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの行動方針はに「安全」「礼儀正しさ」「ショー」「効率」が挙げられています。ディズニーリゾートといえば「ショー」ですが、危険が迫っているときには「安全」が優先されます。つまり、どれだけ盛り上がる内容であっても、危険がある場合にはそのショーが行われることはありません。
それぞれに説明がなされており、例えば「安全」に関しては、「安全な場所、やすらぎを感じる空間を作りだすために、ゲストにとっても、キャストにとっても安全を最優先すること」と記載されています。
このような感じで、上に箇条書きにした名詞や形容動詞の例、企業の行動方針を参考にしながら書き出し、それぞれに誰にでもわかりやすい説明を付け加えれば、よりよい「総合的な援助の方針」が決まります。
利用者様とのお話で、「価値観」聞き出すことができればスムーズにできる
「価値観」とは物事の価値決定において個人的な考え方を意味します。個人的な考え方なので人によっては驚くような物事に重きを置いていることもあります。
例えば多くの人は「苦痛」を嫌がります。しかし「苦痛」の先にある「喜び」を知っている人であれば「苦痛」を率先して選ぶこともあります。
この「価値観」は、人生の目的地である「利用者および家族の生活に対する意向」に大きな影響を与えます。影響というよりは「人生の目的地」を構成する要素が「価値観」の集合体であると言い換えることができます。
また利用者様とご家族の「価値観」をある程度把握しておくことができれば、「総合的な援助の方針」を考える際や優先順位を決める際にも役に立ちます。そのため可能であれば、「利用者および家族の生活に対する意向」に「価値観」も書き込んでおくことが理想的です。
ケアプラン第1表がしっかりできていないと、それを基に作られる第2表が間違ったものになる
ケアプラン第2表はケアプラン第1表をもとに作られます。「利用者および家族の生活に対する意向」という人生の目的地に到達するために、現状とのギャップから「ニーズ」という課題を絞り出します。
つまり「ニーズ」の基になる「利用者および家族の生活に対する意向」が間違っていれば、一生懸命考えた「ニーズ」も「目標」も「サービス内容」も何もかもに間違えます。いくら頑張って介護サービスを提供しても、利用者様が本当に望む理想の未来像に近づくことができず遠ざかるのです。
ケアプラン第1表がしっかりできていると、介護職員の迷いが減る
介護職員1人1人に利用者様A様の生活をどのようなものにしたいのかを聞いて、全く同じ回答ができなければ、一体誰のためのサービスなのかわけがわからないものになります。
例えば介護職員のZさんは、楽しくみんなで外出できるような介護を目指しているかもしれませんし、Yさんは安全かつ健康的な介護を目指しているかもしれません。
しかしそのどちらも、利用者様が思い描く人生の目的地の最も重要な部分でなければ、それは介護職員ZさんYさんともにただの自己満足的な介護に成り下がるのです。
利用者様A様が最も「家族との繋がり」を大切にしているのであれば、外出や安全よりまず先に、手紙のやりとりなどの介護サービスなどを考えるべきです。ケアプラン第1表がしっかりできているということは、このように利用者様の価値観や人生の目的地へ向かうための高度な話し合いができるようになるということでもあるのです。