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作業効率とは
作業効率とは、どれだけ早く、労力を減らして、作業を進めることができるかといった度合いのことをいいます。作業効率を上げるということは、より早く、より面倒を省き、スリムになるよう、様々な部分を省くということでもあります。
なぜかはわかりませんが、なにも疑うことなく、定型化されたように、多くの介護職員や管理者が、作業効率上昇を目指しています。しかし、作業効率を上昇させる目的は何かと質問すると、多くの方が答えることができません。
しかも、スリムとは逆に、太らせつつ(作業を増やしつつ)、作業効率を上げるという無謀なことをやり始めます。作業効率の上昇はなんらかの目的を達成するための手段。目的なく作業効率の上昇を目指すことは、なんの意味もありません。
作業効率を上昇させても、介護の目的「自立支援」の達成には近づかない
事故防止を目的に、作業効率の上昇をすることは決して無意味ではありません。作業の面倒を減らし、心身ともに楽にすることができればゆとりが生まれるので、結果的に事故の抑制につながる可能性が高まるでしょう。
事故による怪我は「自立支援」を阻害しますので、事故の抑制を目的に行われる作業効率上昇は、意味がありると自信を持って言えます。しかし多くの介護職員が、時間内に終わらない業務を、時間内に終わらせることを目的に、日々業務にいそしんでいます。
事故の抑制や自立支援を目的にせず、時間内に終わらせることを目的にしているとはっきり言える証もあります。仕事が遅い介護職員が煙たがれる傾向にあるからです。事故の抑制や自立支援を目的に作業効率を上げる努力をしているのであれば、仕事が遅いからといって煙たがれるわけがないのです。仕事が遅い職員の教育や、仕事内容、順序、優先順位の見直しなどを行ったほうが賢明です。仕事が遅いと煙たがっても、事故の抑制や自立支援の方向に近づけることなんてできないからです。
もし狙い通りに作業効率を上げることができ、残業を減らすことができたとしても、利用者様にはなんの関わりもありません。つまり、介護職員が作業効率を目指す理由は、自分が楽になりたいだとか、非効率なやり方を見てイライラしたくないといった目的だといえます。
追加したい作業のために行われる作業効率上昇も同じ。介護の目的・自立支援を無視した作業効率の上昇は全て、目的の達成からは遠ざかります。自立支援の達成を目指すのであれば、作業効率は悪化させた方が近道。
利用者様一人ひとりの情報を集め、その情報を専門的知識で噛み砕きます(アセスメント)。噛み砕いた情報から利用者様一人ひとりのニーズを汲み取り、自立支援という目的に近づけるための目標を設定。計画的に(ケアプラン)ケアが実施されるようにします。
その目的達成の手段(ケア)の一つが、利用者様の作業参加です。例えば、利用者様と一緒に掃除、洗濯、調理などを行うとしたら、格段に作業効率が悪化します。反面、自立支援度は大きく上昇するはずです。利用者様から奪っていた生活するために必要な作業を適切にお返しするだけ。
手段は手段でしかありません。作業効率を悪化させる以外の手段を見つけるのもありです。しかし、作業効率上昇=自立支援にはなかなかなり得ません。そのため他の手段を選んだ方が賢明。作業効率上昇という手段は、自立支援を目指す上で非効率的です。
作業効率を上昇させても、営利法人の目的「お金を稼ぐ」には繋がらない
営利法人、例えば株式会社に勤める、介護職員の目的はお金を稼ぐことです。介護職員の多くは、お金を稼ぐことをなんら意識されていない方が多いと思います。しかし、自分や家族、大切な誰かのためと、介護職の専門性上昇のために、もっとお金を稼ぐことを意識したほうが賢明です。
介護サービスの報酬は、訪問介護のように流動的なものと、グループホームのように固定的なものとあります。流動的な売上になる介護サービスにおいて、作業効率を上昇させることは直接、売上上昇につながります。
介護職員一人一人の知識・スキルの底上げをし、高い要介護度でも対応できるよう直接売上に関わらない作業効率を上げ、売上に関わる訪問回数と訪問時間の増加。顧客数を増やせば増やすほどに売上が上昇します。
しかしデイサービスや有料老人ホーム、グループホームのように定員という枠にとらわれて、固定的な売上しか発生しないような介護サービスにおいては、作業効率上昇と売上上昇は比例しません。介護保険外サービスの充実を目的に行われる作業効率上昇であれば、売上上昇の見込みがあります。しかしそうでないのなら売上は上昇しないので意味がありません。
作業が遅い人を罵る人は、介護の専門家ではない
作業効率の上昇は、あくまでも目的を達成させるための手段でしかありません。目的もなく行われる作業効率上昇はただの自己満足です。仕事を早く終わらすことができたからといって、何も偉いことないのです。それにもかかわらず介護の現場ではしばしば、作業の遅い人たちが悪く言われがちです。そしてなぜだか仕事が速い人が偉そうにふるまいます。
利用者様と会話したり、一緒に作業したり。それが理由で作業が遅くなっている人たちもいます。作業療法士のような仕事をしている介護職員です。そんな人たちを作業が遅いと言って罵っているのであれば、ただちにやめた方が恥ずかしい思いをせずに済みます。
仮にもし、利用者様と会話しているわけでもなく、一緒に作業しているわけでもないのに作業が遅いのだとしても、罵ることを辞めることをおすすめします。なぜなら、ゆったり作業しているということは、利用者様が話しかけやすいということでもあるからです。
また利用者様が、せかせかした職員の影響を受けないということでもあります。忙しいのは介護職員側の理由であって、利用者様の理由ではありません。忙しそうにしていたら、利用者様に気を遣わせて、話しかけるのを控える可能性が高まるのです。
作業が遅いと罵ることは、専門的知識を持った介護職員がやると恥ずかしい行為といえます。作業の遅い介護職員の方が明らかに、自立支援という目的達成に貢献しています。そういった介護職員の方が利用者様の情報も持っている傾向にもあります。
作業効率の上昇は、日本人であれば迷うことなく誰もが行なっていること。しかし目的も明確でない状態での手段、作業効率の上昇は毒でしかありません。早く終わることが正義であって、利用者様の意思や気持ちをないがしろにすることになるのです。
正しい選択をしている介護職員が肩身の狭い思いをしています。なんのために仕事を早く終わらせたいのか改めて考えた方がいいと思います。自立支援または売上上昇につながらない、重要でない作業は引き算して、縮小したほうが賢明です。