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もっとも重要な第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』
ケアプランの中で最も重要な書式がケアプラン第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』になります。多くのケアマネや介護職員がこれを理解していません。みなさんが最も時間をかけている部分は、ケアプラン第2表『居宅(施設)サービス計画書(2)』の方ではないでしょうか?
利用者様一人の人生のための介護を仮に戦争だと仮定した場合、『居宅(施設)サービス計画書(2)』の「ニーズ(ゴール)」ひとつひとつは作戦であり、「目標」ひとつひとつが戦術になります。一方『居宅(施設)サービス計画書(1)』は戦略になります。
戦略とは最終的な目的地のことです。山登りにおける戦略は、例えば「富士山のてっぺんに到達すること」。どこの山のてっぺんに到達したいのか。企業においてはビジョンや理念が戦略です。
例えばGoogleのビジョンは「ワンクリックで世界の情報へのアクセスを提供すること」になります。Googleが最終的に目指している目標地点がワンクリックです。
人生における戦略は「家族みんなが笑顔でゆったり過ごせるあたたかい家庭」といった内容が例として挙げることができます。しかし高齢者になり、病気や認知症を患うことによって、若いころに目指していたあたたかい家庭への到達が、不可能になってしまっている場合も少なくありません。
つまり『居宅(施設)サービス計画書(1)』に記載する内容とは、人生の終末期における戦略・最終的な目的地ということになります。それにもかかわらず『居宅(施設)サービス計画書(1)』を軽い扱いしている介護職員が少なくないのです。
ちなみに『居宅(施設)サービス計画書(1)』を軽視したうえで、『居宅(施設)サービス計画書(2)』にだけ力を射れたケアプラン作りをしていると、「富士山のてっぺん(最終目的地)」を目指していたのにも関わらず、努力が異なる方向に向いてしまい、「北岳のてっぺん」に到達していたなんてことが起こります。
異なる山であれてっぺんに到達したならまだ運のいい方。最終目的地を見失った状態で介護を提供するということは、山の中で遭難することと同じ。つまり、『居宅(施設)サービス計画書(1)』をおろそかにすると、いくら頑張ってよいと思える『居宅(施設)サービス計画書(2)』を作成し、介護を提供してもすべて失敗します。間違ったケアサービスを提供することになるのです。
人生の終着駅・目的地を記載する場所が「利用者及び家族の介護に対する意向」
すでにご説明した通り、第1表『居宅(施設)サービス計画書(1)』がもっとも重要です。人生の終着駅・目的地を記載するための用紙だからです。あなたは幸せな人生を送りたいと思っていると思いますが、人生の目的地を記載するあなたの『居宅(施設)サービス計画書(1)』がないがしろにされていたら、いい気持ちしないはずです。
人生の終末期である終着駅・目的地は、『居宅(施設)サービス計画書(1)』の「利用者及び家族の介護に対する意向」に記載します。利用者様本人やそのご家族と話し合うことで得られた「人生の終着駅・目的地」です。利用者様の人生ですから、利用者様本人やそのご家族とお話しするのが筋です。
介護はそもそも、老いてから命が尽きるその最期までに提供される数少ないサービスの一つです。命の尽きるその時までの間に、どこで、誰と、どのように過ごし、何を残したいのか、家族や生活とどう接していきたいのか、そのために求めるサービスがどのようなものなのかを、記載する部分になります。
ここがはっきりしていないと、介護職員は皆介護サービスに迷うことになります。利用者様一人ひとりの「人生の終着駅・目的地」は、介護職員にとって「使命(ミッション)」になるからです。介護の仕事を言い換えると「人生の最期を彩る」仕事です。
利用者様一人ひとりの人生の終着駅・目的地がどのようなものを望んでいるのか、はっきりしていなければ介護職員は誰も、利用者様をそこへ導くことができません。逆にそれがはっきりしていれば、介護職員は迷うことなくそこへ導く「使命」を全うできるのです。
人生の終着駅・目的地へ到達するための行動方針が「総合的な援助の方針」
とても優れた企業のウェブサイトのほとんどに「行動方針」が記載されています。「行動方針」がしっかり機能している企業で働く職員は、どのように考え、どのように行動するか一貫性があります。
日本でもっとも有名な行動方針の一つはディズニーリゾートの行動方針です。
- 安全
- 礼儀正しさ
- インクルージョン(多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる)
- ショー
- 効率
安全が第一優先で、ショーの重要性はディズニーリゾートにおいては4番目に位置づけられています。実際に大地震があったその時、ディズニー利蔵との対応が「神対応」と反響を呼びました。ゲストを守るため、売り物であるはずのぬいぐるみを配って頭を守るように促したり、妖精を演じたまま安全な場所に誘導したりしたからです。
つまりディズニーシーのキャスト一人ひとりが、ディズニーシーの行動方針にのっとった考え方と行動をしているのです。そのため一人ひとり人間が違っても、行動に一貫性があります。
『居宅(施設)サービス計画書(1)』の「総合的な援助の方針」には、「利用者及び家族の介護に対する意向」に記載した内容に矛盾しない行動方針を書く必要があります。「総合的な援助の方針」、つまり人生の最終地点に到達するための行動方針だからです。
例えば「できる限り痛みを軽減して」といった内容が「利用者及び家族の介護に対する意向」に記載されているのに、「総合的な援助の方針」には「できる限り早く」と記載されてしまうと、少し援助の方針としてずれが生じます。スピードを求めるとどうしても痛む機会が増加するからです。
一方「安全」「効率」「臨機応変な傷めどめ対応」などであれば、「できる限り痛みを軽減」する「利用者及び家族の介護に対する意向」に矛盾しません。
ケアプラン第1表を具現化するために作られるのが第2表
『居宅(施設)サービス計画書(2)』を作る際には、『居宅(施設)サービス計画書(1)』の「総合的な援助の方針」がコンパス、「利用者及び家族の介護に対する意向」が地図のような役割を果たします。地図という目的地を見て、今向かっている方向が間違っていないので、確認しながら『居宅(施設)サービス計画書(2)』を作ります。
一方『居宅(施設)サービス計画書(2)』の「ニーズ(ゴール)」は、「利用者及び家族の介護に対する意向」に到達するために必要な作戦です。1つの作戦がうまくいっても「利用者及び家族の介護に対する意向」にたどり着くことができないので、複数の「ニーズ(ゴール)」が必要になります。
例えば「利用者及び家族の介護に対する意向」が「元気に楽しく」であれば
- 運動
- お買い物
- 外食
- ご家族を招いた催し物
などが「ニーズ(ゴール)」にできそうです。4つの「ニーズ(ゴール)」しか挙げていませんが、利用者様本人と話し合い、「元気に楽しく」に到達するためにはもっと必要な場合もあり得ます。つまり「ニーズ(ゴール)」は、「利用者及び家族の介護に対する意向」に迷わず到着できるようにするための節目になります。
元気に楽しく過ごすことの身体づくり、そして楽しさである買い物や外食、催し物。基本的に「ニーズ(ゴール)」は、曖昧な表現になります。具体性がなく、実際に何をすればいいのかについては「目標」に書きます。つまり「目標」はその名の通り、迷わず「ニーズ(ゴール)」に到着するための道しるべになります。
- 毎日洗濯
- 毎日公園を1時間散歩
- 毎日屈伸10回
- 毎週木曜日〇時に近所の〇〇スーパーに買い物
- 毎月21日に近所のイオンに外食
目標を例に書いてみましたが、かなり具体的な内容になっていると思います。具体的に描くためには、数値や日にち、頻度などもしっかり記載すると良いでしょう。場所も、誰が見てもわかるようにはっきりさせます。
もちろん目標ひとつひとつすべて、「ニーズ(ゴール)」に到達できる内容でなければなりません。つまり「ニーズ(ゴール)」に矛盾する内容ではいけません。「できる限り痛くない」方針なのに、毎日屈伸させたりしては矛盾します。
このように『居宅(施設)サービス計画書(1)』を頂点にして、『居宅(施設)サービス計画書(2)』の細部にいたるまで、矛盾しないよう、一貫性のある計画が適した内容といえます。