Contents
従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)とは
小難しい説明は省きますが、従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)とは、従業員が1人で稼いでいる利益のこと。従業員が1人であげている成果。成果が増加すればするほど、会社は給料を上昇させやすくなります。
簡単な計算式でご説明すると、10人で1,000万円の成果をあげれば、1人100万円の成果。10人で1億円の成果を上げることができれば、1人で1,000万円もの成果をあげていることになります。
社会福祉・介護業界の労働生産性は 1年間で288万円
2012年の経済センサスによると、「社会福祉・介護業界」の労働生産性は、1年間でたったの288万円です。労働分配率は85.8%とかなり高く、あげた成果288万円のうち、給与として247万円ももらえているのです。人件費に回している割合は、すでにかなり高め。つまり、これ以上給与が増える見込みはありません。
国が介護報酬をあげたら解決するのではないかと思いますが、そう簡単には介護報酬をあげることができません。40歳から支払うことになる介護保険料と公費から賄われるからです。
医療・保健衛生の労働生産性は 1年間で482万円
同じく2012年の経済センサスによると、「医療・保健衛生」の労働生産性は、1年間で482万円。「社会福祉・介護業界」より、1人の成果が200万円も高いのです。労働分配率は78.5%。「社会福祉・介護業界」より7%低い割合で給与が支払われています。あげた成果482万円のうち、給与として378万円もらえる計算になります。
付加価値を作り出すのが上手な「Apple」
ここではもう少し「付加価値」について掘り下げてみたいと思います。皆さんが毎日利用しているスマホiPhoneについてです。iPhoneは、時価総額世界一、9183.98億ドル(2018年5月4日時点)もの価値のある企業Appleが開発・販売する製品です。iPhoneの価格は10万円前後。
日本人はとても高価なスマホを購入していることになります。しかし、iPhoneに使われている技術は、なんら新しいものではありません。品質も、日本企業が作るスマホの方が高いと考えられています。実際、iPhoneに搭載されるカメラはSONY製。ディスプレイも日本の会社ジャパンディスプレイや韓国のサムスンのものが採用されています。
それにもかかわらず多くの人々がiPhoneを選んでいるのです。その理由は、AppleやiPhoneというブランド価値が高いからです。「実際の品質」に「付加価値」が加わったものが「知覚品質」。仮にもし、Apple iPhoneよりSONY Xperiaの品質の方が高くても、品質+付加価値(品の良さや質感の高さ)=知覚品質で劣っているのです。
SONY Xperiaの品質がいくら高くても、多くの日本人はApple iPhoneの品質が最も高いと思っています。
「実際の品質」も「知覚品質」も悪い介護のサービス
「介護の仕事は誰でもできる」との発言で、介護職のたくさんの方々が憤りを感じました。しかし介護職でない方やお客様が認知する品質レベルが知覚品質なのですから、現実を受け止めなければなりません。しかも介護のサービスは、SONY Xperiaと比較するには申し訳ないほどに、実際の品質も悪いといえます。
あるグループホームに入社した際、キッチンで2人に職員がもめていました。喧嘩の内容は、「バナナをそのまま出すか、輪切りにして出すか」。なぜキッチンで、本人たちの身体機能や意思を無視してもめているのでしょう。
もちろんここで働く介護職員たちは、ケアプランを見ていません。利用者様一人ひとりの目的や目標、具体的なサービス内容もわかっていません。ケアプランを確認すると、9人すべてのケアプランの内容がほとんど同じでした。
あってないような人生計画(ケアプラン)と、押し付けサービスで成り立っていたのです。そこに専門性は全くありません。「バナナくらいみんな自分で向ける」「のどに詰まらせたらどうするの? 責任取れるの?」利用者様に聞こえるほど大きな声でもめているのです。
施設で勤める人たちは、自分の親を自分の施設に入所させたくないといいます。それは自分で自分の働く施設の「実際の品質」を知っているからです。
誰にでもできる職業は、介護の他にもたくさんありますが、お寿司職人などの料理人やデザイナー、アーティストなど、高い専門性を認められている職業もあるのです。しかし介護の品質は決して高いとは言えません。あなたの会社の介護も、押しつけで成り立っているのではないでしょうか?
要介護認定を受けた方が最低限度の生活を営むための費用は19万3,300円
日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」とあります。
厚生労働省によると、介護保険受給者1人当たりの費用額(平成29年8月審査分)は19万3,300円。約20万円も支払っているのに最低限度の生活しかできないのです。介護職員自らが、実際の品質が悪いと認めているのに、気持ちよく20万円も支払いたいとは思えません。
実際多くの介護現場で提供される介護サービスは専門性にかけています。計画的な自立支援がなされているわけではなく、介護、もとい、お世話がなされています。もちろん、専門性の高い介護サービスが提供されるところもあるでしょう。しかし数が少ないからか知覚品質が低い状況。
この状況で介護報酬の上昇を見込めるはずもありません。財源が足りていないので、税金や介護保険料をさらに多く徴収しなければならないのに、知覚品質だけでなく、実際の品質も低いのです。
自分の給与は自分で増やす
介護とは全く異なる業態に勤めていた時、支店責任者である私の仕事の一つは、部下の生活を保障することでした。会社からは、従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)は、400万円必要だと言われていました。1つの支店管理に、最低2人必要でしたので、最低でも2人合わせた付加価値額は800万円。800万円を3ヶ月連続下回る場合、支店を潰さなければなりませんでした。
逆に1,200万円に増やすことができればもう一人雇うことができます。従業員が3人に増えたにもかかわらず、3ヶ月連続3人合わせた付加価値額が、1,200万円を切ってしまった場合、私の責任で一人、クビにしなければなりません。
そのため支店責任者にもかかわらず、時間を作っては営業の仕事も行いました。1週間以上連続して、直接取引先に出勤したこともあります。取引先の仕事の手伝いをして、様々な愚痴という情報収集を行なったのです。
職員一人一人に売り上げや利益を常に意識させることや、それぞれが一人で支店の管理ができるような教育も行いました。自分で自分の給与を稼ぐことができるように育成したのです。
株式会社は営利法人
株式会社は営利法人です。営利を目的に事業が営まれているのです。営利とは、簡単にいうとお金儲けのこと。株式会社に勤める介護職員は、お金儲けを目的に介護サービスを提供する必要があるのです。実際多くの介護職員がお金の重要性を訴えています。「給与を増やして欲しい」とみんな口をそろえて訴えます。しかし給与を増やすには、従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)を増加させなければなりません。
2012年時点では288万円。できれば、医療・保健衛生の労働生産性と同じくらい480万円を目指したいところ。480万円にできれば、給与平均は約370万円に増加できる計算です。
給与を増やすには一定以上の品質の確保と介護保険外サービスが必要
介護保険サービスはいくら企業努力しても、独自の付加価値を追加することができません。介護報酬は国によって決められているからです。努力して独自に介護サービスの質を上げても、そのまま付加価値にすることができないのです。
また人員基準が設けられているので、人という資源を減少させるようなやり方もできません。そのため従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)を増加させるのが難しい職業といえます。しかし品質を上げ、自立支援がうまくいけば、介護保険給付の抑制が可能となります。高齢者が働くことができるようになれば、介護保険料の徴収額の増加ができるかもしれません。
そこで国は、品質を確保すればするほど介護報酬が上がる仕組みを作りました。医療連携体制を整えたり、要介護度の高い人を継続入居、看取り介護をおこなたり、介護福祉士・勤続年数が3年以上の割合で介護報酬の加算がなされる仕組みです。
給与アップを望むのであれば、介護という専門性の高さを人々に認められる必要があります。それと同時に、ロボットやICTで職員の業務負担の軽減も図る必要があります。介護の職場がきついこともまた事実だからです。
介護保険サービスと併用して介護保険外サービスも必要になります。介護職員にも利益を考えた、専門性の高いサービスが求められています。