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スピードを最も重視する人は自己中心的で、天に唾するようなもの
最もスピードを重視する理由はなんでしょうか。やることがたくさんあって忙しいから。早く終わらせてしまいたいから。やりたくないから。色々と理由は考えられますが、急ぐ理由は基本的に自分の理由です。
例えば、介護を受ける親御さんや要介護者の食事を作らなければならないから着替えを急ぐといった場合、自分の理由ではなく、親御さんや要介護者のせいだと言い換えることもできます。しかし、やることが多いことや次の仕事までの余裕がない理由は、親御さんのせいではありません。
家事や育児、仕事などたくさんやることの多い現代人は、完璧を目指すあまりやることの断捨離をすることができません。仕事でもプライベートでも、今の自分や自分たちでは抱えきれないほどのやることを一生懸命背負おうとしてしまいます。
背伸び程度の無理は必要ですが、過度な無理は天に唾することと同じ行為です。無理をし続ければ心に余裕がなくなり、人に優しくすることができなくなります。身体を壊すことになりますし、介護されている方も気分が良くありません。
自分のせいなんだから仕方がないと塞ぎ込み、心身状態の悪化を加速させてしまうこともあるでしょうし、イライラさせたり怒らせてしまう理由にもなりえます。スピードを重視しすぎると、長い目で見た場合にスピードが落ちます。結局はみんなが損をしてしまうのです。
今はやらなくて良い優先順位の低いもの、回数を減らしても大きな問題にならないものなど、一度、やることの断捨離を考えて見てはいかがでしょうか。人間関係が円滑であることが最速です。
介護は高齢者向けの人間関係
介護に限らず仕事全般に言えることですが、いくら難しい介護の知識や技術を並べて見ても、結局のところは人間関係です。自分のためや必要としている人のために仕事を行なっているのですから当然のことです。
例えば、小さな子供と本気で向き合おうと考えたら、子供の身長に合わせ、座ってお話をすると思います。子供の目線に合わせなければ、子供が見る世界を見ることも感じることもできませんので、会話すら成り立たないのです。
全て相手の目線で、相手の立場に立って、考えに考え、悩み尽くして、相手が望むこと、必要とするものを一生懸命提供しようと努力します。して欲しくない嫌なことはできる限り避けます。嫌われたくないですし、大切な人であるのなら役に立ちたいのです。
介護や仕事は結局のところは相手を思いやる気持ち。人間関係です。知識や技術などはただの武器であって手段です。武器はあった方が便利ですし、より上手にできるかもしれませんが、なくてもできます。
知識や技術は、扱う人の心が相手に向いていないのであれば、相手を助けるための武器ではなく、相手を傷つけるための凶器に成り下がります。
着替え介助の準備
準備は着替え介助そのものより重要
「やればいいんでしょ。」って感じでしてもらうことは誰だって嬉しくありません。例えば料理。「忙しいし疲れているから仕方ないよね。」って感じで作られた料理は、まずくないだけで美味しくは感じません。
しっかり準備された料理ならどうでしょう。諦めるわけではないけど、今は完璧は難しいとやることを減らし時間に余裕を作ったとします。この時間を有意義に使い、料理の勉強をしたり、テーブルやお花、食器や調理器具などの環境を整えたり、親御さんや要介護者の要望を聞いてみたりします。
最初は親御さんや要介護者は、「忙しいのに大丈夫。」なんて気遣いと戸惑いを感じてくれるかもしれません。しかし次第にそのような介護者の行動に期待し、笑顔が増えてくるのではないでしょうか。
良い食事ができるかどうかは、実際に食事介助をする実行段階だけで決まることはまずありません。少しくらい食事介助が下手くそで遅くても、雰囲気も香りも味も食感もよく、会話が楽しければ食事は大成功です。
雰囲気、香り、味、食感、会話などは食事が始まってからではどうにもなりません。食事という実行段階の成功の8割は、準備段階である料理や環境、会話のネタづくりなどにかかっています。
そしてその料理の成功の8割もまた、レシピや練習、食器や調理器具などの準備段階の方にその重要度が偏っています。
スポーツや試験も同様。たった一瞬で終わってしまう試合や試験の評価は、練習などの準備をどれだけできたかで決まります。「段取り八分、仕上げ二分」と言うことわざは、多くの事柄に当てはまり、それは着替え介助においても例外ではありません。
知識や技術の習得
やることを減らし、時間を作って着替え介助の知識や技術を習得することができれば、着替え介助の幅が大きく広がります。親御さんや要介護者に無理なく、痛くなく着替えしてもらえる可能性が増加しますし、スピードの上昇も期待できます。
障害がある方には障害を持つ方向けの着替え方があります。障害があっても自分一人で着替えられるように教えたり、練習に付き添ったりもできます。教えたり練習する分、短期的には時間がかかりますが、自分でできることが増えるので、長期的には時短になるということです。
介護される側にとって、苦痛なくスムーズにできることや自分でできることが増加すると、嫌じゃないし嬉しいので、コミュニケーションも円滑になります。忙しいからとスピードを重視していた考えを捨てたら、長期的にはスピードが速くなっていくのです。
空調などの環境を整える
寒い季節であれば部屋を暖めておきます。これは親御さんとか要介護者とか関係ありません。誰もが寒いところで着替えたくないはずです。それにもかかわらず、義務(仕事)だから、急いでいるからと布団を引っぺがし、服を脱がせたら誰だって嫌な気持ちになるはずです。
例えば起床時の着替え。1日の始まりが最悪だと、次の食事にも影響が出ます。一緒に生活している方がいるのであれば、険悪な雰囲気になりますし喧嘩に発展することもあります。食事を拒否したとしても納得の反応です。
部屋を暖めてから着替えをする介護者の場合、自然と親御さんや要介護者は着替えを拒否することが少ないはずです。笑顔での挨拶から始まり、着替え中も笑顔が多いかもしれません。起床後の朝食時もスムーズで、会話のはずむ食事の実現可能性が高いのではないでしょうか。
衣服を温める
寒い日の冷たい服、ひんやりしていて嫌ですよね。多少時間に余裕があるのであれば、ストーブなんかで温めてから着替えたりする方、少なくないのではないでしょうか。
自分ですらそうなのに、自分が嫌なことを人にしてはいけません。自分で嫌なことをするのと違い、自分以外の人に嫌なことをされる方が納得できない部分も大きいのです。仕事をしている人と比較すると、親御さんや要介護者にとっての着替えの必要度はかなり低くなっています。
着替えなくても一応は生活ができてしまうからです。ひんやりした衣服での着替えを続けていたら、そのうち機嫌の悪い日が増加したり、着替えを嫌がるようになったり、お互いにメリットがありません。
自分の手を温める
空調と衣服より重要かもしれません。冗談でよく冷たい手で背中に触れたりされた経験、一度はあるのではないでしょうか。冗談だとわかっているのですが、私の場合かなりイラっとします。本気で怒ることもあります。
自分で着替えることができないとはいえ、それを毎日毎日されるだなんて考えるだけでも嫌です。裁判における体罰認定においても、継続されているかどうかは重要な判断基準となります。嫌がることを継続するということは、それはもう体罰やいじめと同等かそれに近いものだと自分の行動を改めるべきです。
空調管理や衣服の温めにも関連しますが、急激な温度変化による血圧の変動「ヒートショック」の心配もあります。「ヒートショック」は、脳や心臓などに大きな負担をかけますので、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞など命に関わる病気の発症リスクを上昇させることも考慮しておきましょう。
道具を活用する
例えばユニバーサルファッションと呼ばれる、高齢者でも着替えやすいパジャマや部屋着。着替えをサポートする椅子や手すり。そのような様々な道具を上手に活用します。
一度でも入院を経験したことのある方であれば理解していただけるかと思いますが、自分でできるということが一番ストレスがありません。お願いするのも人にやってもらうのも、ありがたいのですが申し訳無いですし、ストレスを感じます。
自分のペースではできませんし、介護者がイライラしているのを感じたり余裕なさそうに急いでいたりするのを見ると、情けないやら不甲斐ないやら、なんだかよくわからない負の感情を抱かずにいられなくなるのです。
上手に道具を活用することができれば自分でできることが増加しますので、ストレスが減り、笑顔が増加していきます。介護者側の負担も減り時短にもなります。介助する場合も、やりづらい道具よりやりやすい道具を使った方がお互いに負担がありません。
色々と諦めてしまい自分を大切にできないほどに落ち込んでしまっている親御さんや要介護者の場合、自分ではやらないでしょう。そんなつもりでは無いとしても、否定されたり、イライラされたりを相手が感じ続けると、何も見たく無い、何も聞きたく無い、何もやりたく無い、何も話したく無いという状態になってしまいます。
自分にはもうどうにもできない心身状態なので、心を閉ざすしか選択肢がないのです。このような方の場合は、焦らず、否定せず、「ありがとう。」などとお礼を言いながら、ゆっくりゆっくり肯定し続けるところから始めなければなりません。急にやってもらおうと思っても、うまくはいきません。
プライバシーに配慮する
ドアやカーテンを閉めたり、バスタオルなどで隠したりなどのプライバシーの配慮です。特に男性は、種の保存を目的に、察して配慮したり気遣ったりすることが苦手な脳構造をしています。意識してドア、カーテン、タオルなどのことを考えていないと、配慮に欠けて着替えを嫌がられてしまいます。
男性と異なり女性の場合、種の繁栄や保存、身を守るなどを目的に、プライバシーにとても気を配れる脳構造をしています。
脳の構造そのものが異なるので仕方がないのですが、特に女性を男性が介護する場合にはプライバシーに対する配慮をより強く意識して介助する必要があります。女性が男性からの介護を嫌がる傾向にあるのは、生物学的な根本部分にも理由があります。
その都度着替えの必要性を説明する
衣服の着替えは、自分を表現するためや外出するためにだけ行われるわけではありません。環境から身を守るため、体温をコントロールするため、皮膚の清潔を保つため、生活リズムを作るためなど、着替える目的はとても重要で高齢者にこそ必要です。
しかし、外出する回数が減っていくほどに、部屋から出なくなっていくほどに、ベッドから出る回数が減るごとに、本人が着替えることに疑問を感じることもあります。
そんな時でも、しっかり納得してもらえる説明ができるようにしておくことも必要です。着替えを継続することで防ぐことのできる病気もありますし、要介護度の悪化速度抑制にもつながります。
着替え介助も備えあれば憂いなし
日々継続され、積み重ねられていく着替え。着替えをしないということは、病気の発症リスクなどを積み重ねていることと同義です。要介護度の悪化速度上昇を手助けしているとも言い換えることができるでしょう。
着替え介助と考えると軽く考えられがちですが、命に関わる病気の発症リスクの上昇。着替えに対する悪い印象の積み重ねで、着替えをしたくないという思いを日々積み上げていくことを考えると、決して侮っていい行為ではありません。
しっかり準備しなければ、着替え介助そのものは一瞬で終わってしまいます。しかし、準備なく一瞬で終えてしまう着替え介助のリスクを考えると、準備を怠らない着替え介助の方が良いに決まっています。
人のせいにして、「不穏」という便利な言葉で結論づけてしまわないよう気をつけなければなりません。たかが着替えと侮っていると、嫌な思いを積み重ね、周りに迷惑をかけ、自分の首を絞める結果を招くことになりかねないのです。