数ある介護保険サービスの中でどの介護保険サービスを選択すれば良いのかお悩みの方向けに、経験も踏まえた『訪問入浴介護の仕事内容』をご紹介します。
訪問入浴介護とは
『訪問入浴介護』とは、利用者様またはご家族の介助、もしくはホームヘルパーの介助による入浴が困難な方を、自宅にて入浴のお手伝いをするお仕事をいいます。
デイサービスより給与が高め
訪問介護ほどではありませんが、『訪問入浴介護』の給与は在宅系の介護職の中では比較的給与が高い傾向にあります。
訪問入浴介護の良いところ
介護職員とナースの連携が理想的
『訪問入浴介護』は、他の介護職では考えられないほどに介護職員と看護師の距離がとても近いといえます。
例えば施設系介護の場合居室の数は多数。看護師は介護職員が、介護職員は看護師が、今どんな仕事をしているのか目で見る機会はほとんどありません。同じ職場というだけで一緒に行動するわけではないからです。
お互いの仕事内容は耳では聞きます。しかし百聞は一見に如かず。実際に見ているわけではないので、本当の意味でお互いの大変さが伝わることはありません。施設で働く職員みんなで一緒に飲みに行ったとしても、介護職は介護職、看護職は看護職で別れてしまうことが珍しくありません。なんらかの仕組みを導入しない限り、介護職員と看護師はいがみ合いやすい環境にあるといえます。
一方『訪問入浴介護』は施設介護とは看護師との関係性が真逆です。看護師も介護職員と同じ狭い車に乗って移動。利用者様宅にて一緒に入浴介助を行います。介護職員も看護師も同じ部屋で看護・介護を行います。互いが互いの動きを見つつ、その人にしかできない仕事を優先してもらい、そうでない場合は互いにサポートします。
介護職員がもし他の介護の仕事をしていたら、手の空いた看護師がすかさず他の介護の仕事をサポートしてくれるのです。相棒といえる近しい関係性です。
自分たちの目標や役割がはっきりしている
「烏合の衆」とは、規律も統一もなく集まった2人以上の群れを意味します。逆に、規律や統一感のある集団は「組織」といいます。
「組織」では、会社の「理念」や「ビジョン」といった目的が明確で、一人一人が同じ目的のために行動します。目指すものが一緒なのでそれぞれが協力し合えるのです。
とはいえ、「理念」や「ビジョン」といった小難しい、最終的な目的地が明確でなかったとしても、目先の目標さへはっきりしていればその場はうまく組織として機能します。さらに、それぞれの役割がはっきりしている場合には個々が迷うことなく、自分の役割を全うしようと動くのでさらに組織的な集団行動を実行できます。
『訪問入浴介護』は3人のトリオ、もしくは2人のペアで行動します。3人の役割は明確です。目標はっきりしています。「決められた時間内に1人の利用者様の入浴介助を行い、さっぱりすっきり笑顔にすること」。目標として正しいとは言えませんが訪問入浴の業務では、入浴というたった一つのサービスを提供します。
利用者様やご家族 たくさんの笑顔が見られる
2人もしくは3人の介護職員と看護師たちがそれぞれの役目を果たすと、そこには利用者様とご家族の笑顔という報酬が待っています。
ご家族にとって入浴介助は重労働であり大変です。ご家族も高齢、もしくは力や体力がない場合には入浴介助なんてできません。本人にとっても同じ。入浴していない期間が長くなればなるほど身体が油でベタベタしてきますし、気持ち悪く、機嫌も悪くなります。
そのため『訪問入浴介護』の仕事では、他の介護職と比べてお礼を言われやすく、たくさんの笑顔をもらうことのできる介護職といえます。
介護の仕事が嫌いになりづらい
ここまでご紹介してきた通り『訪問入浴介護』においては、それぞれに役割がはっきりしており、共通の目標(適切ではないとしても)を目指している点において職員同士の関係が悪くなりづらい介護職です。
しかもそれぞれがしっかり自分の役目を果たせば、ほぼ確実に利用者様の笑顔という報酬を得ることもできます。そのため他の介護職に比べて、介護の仕事が嫌いになりづらいお仕事といえます。会社や管理者、リーダーの影響が少なても、比較的高い満足感を得ることのできる仕事なのです。
訪問入浴介護の仕事内容
オペレーター・介護職員・看護師のトリオで訪問入浴介護
『訪問入浴介護』のお仕事は「オペレーター」「介護職員」「看護師」と3つの役割に分かれます。
「オペレーター」の役割はその名の通り運転と操作です。車の運転と、入浴車に積まれた給湯器の湯量や温度調整といった役割を果たします。また、全体的な時間管理や3人の指揮者的役割、その他の道具の操作などの役目もあります。時間、人、道具を機能させるといった中心的な立ち位置になります。
「介護職員」の役割は入浴介助そのものです。脱衣、移乗、洗髪、洗体、着衣、髪の乾燥を行う中心的役割で、それらの介護に必要な細かい備品管理などまで担当します。
「看護師」の役割は看護。サービス前後にバイタルチェックを行い、入浴可否の判断を担当します。状況によっては洗髪のみ、清拭、部分浴などの代替サービスを提案することもあります。入浴前や後に必要な処置もありますし、訪問看護との連携も仕事の一つです。
「オペレーター」と「看護師」は共通して入浴介助前と後に仕事が集中していますので、実際の入浴介助では「介護職員」のサポートにも回ります。
2〜3人でたった1人の利用者様のために、二人三脚、三人四脚といった連携を見せながらあっという間に準備と片付けを行い、ゆっくり入浴してもらうお仕事になります。1対3の手厚いケアができるのは訪問入浴だけ。
1日6〜8件程度を訪問
『訪問入浴介護』は1日に6〜8件程度の利用者様宅を訪問して入浴介助を行います。
8:00~9:00 出勤 『訪問入浴介護』事業所に出勤。着替えを済まし、機材や備品のチェック。申し送りをして出発です。
12:00まで2〜3件の利用者様宅にて入浴介助を行います。12:00からお昼休憩。事務所に戻ってからお昼休憩の場合もありますしコンビニなどで休憩する場合もあります。
13:00〜17:30頃まで4〜5件の利用者様宅にて入浴介助を行います。16:30~17:30頃には事務所にて機材や備品のチェック・掃除、記録 『訪問入浴介護』事業所に戻ります。機材や備品のチェック・掃除、記録等を行い、着替えてお仕事終了です。
1件おおよそ45分 入浴の手順
- 00分 荷物を抱えてチャイムを鳴らしご挨拶
- 05分 看護師:バイタルチェック/介護職員2人:浴槽搬送・組み立て、入浴の準備
- 10分 看護師:バイタルを報告。脱衣介助と必要な看護処置、介護職員:入浴に必要な備品の準備/オペレーター:浴槽にお湯を溜めつつ、温度調節
- 15分 ベッドから浴槽への移動介助 洗髪・洗体介助を行い入浴
- 30分 浴槽からベッドへの移動介助/看護師:必要な処置を行い、着衣介助とバイタルチェック/介護職員:浴槽の掃除、備品の後片付け/オペレーター:浴槽からお湯を抜きつつ、入浴車周りの後片付け
- 45分 サービス終了
- 60分 おおよそ15分以内に次の利用者様宅に訪問できるとスムーズ
訪問入浴介護の難しいところ
現場は利用者さま宅の居室 浴槽は約1畳分 狭い場合もある
利用者様の居室内に運ぶ浴槽の大きさはおおよそ畳約1畳分くらいの大きさがあります。多くの『訪問入浴介護』のウェブサイトにて約2畳ほどの広さがあればと記載ありますが、約2畳の狭い居室での移動介助や入浴介助は事故がないように神経をとがらせる必要があります。
狭く身動きが取りづらい現場もあり、現場によってはタンスなどに「ガツン」と肘をぶつけて「ジ〜ン」とするあの独特の痛みをよく味わうことになります。またこのような狭い現場においては、痩せていても身動きが取りづらいので、ふくよかな方の場合はさらに介護がしづらくなります。3人のチームプレイが試される現場になります。
待機時間もあれば、時間が押してしまうこともある
1日に何件の利用者様宅を回るのかバランスがとても難しいお仕事です。浴槽の搬送から始まる入浴介助がきっちり時間内に終わるかどうかはほとんどがオペレーター次第。時間を押してしまうようなルートであれば回る利用者様宅ルートを変えたり、交換したり、減らす必要も出てきます。
場所によっては移動が長い場合もありますし、どうしてもコンビニなどで時間を潰さなければならない待機時間も出てきます。
このように、常に時間に支配され、急かされているような感覚が付きまといます。この時間からの支配を苦手に感じる人もいれば、やりがいに変換できる人もいると思います。待機時間をラッキーだと思う人もいれば、待機時間は時間が進む感覚が遅いから嫌だという人もいます。
会社によっては、ご家族がお出ししてくれる飲み物や食事を残してはいけない決まりも
多くのご家族が入浴介助の大変さをすでに体験済みです。徐々に入浴介助の大変さが増してくるとホームヘルパーにお願いする人も増えてきますが、その時のホームヘルパーの大変さを目にしている方も少なくありません。
ご家族は利用者様の奥様であったり旦那様であったり娘さんだったりします。息子さんがいらっしゃるご家庭は少ないというか、あまり見かけたことがありません。入浴介助の大変さを経験済の方がほとんどです。
ご家族が女性の場合、男性に比べて入浴介助後にとても嬉しそうにしている印象があります。大変なことを知っているからでしょうが、多くの場合、キンキンに冷えたお茶を出してくださったり、中には食事に近いおやつを提供してくださったりするご家族もいます。
これに対し、ありがたく気持ちだけ受け取ってお断りするといった方針のところもあれば、せっかく提供してくれているのだから残さずたいらげましょうといった方針のところもあります。
全て残さずいただく方針の会社の場合、味がいくら美味しくても大変なときがあります。介護職員の宗教によっては、お茶が飲めなかったり、食べてはいけなかったりもあります。その場合誰かが代わりに全てを飲んだり食べたりすることになります。真夏の暑い中、時間に追われている中、一瞬でいただかなければなりません。
肌が弱い方は手荒れがひどくなる
利用者様やご家族の希望によっては入浴剤を使用する場合もあります。そのためご家族には比較的誤解されがちですが、実は『訪問入浴介護』を行なっている職員は手が荒れている人がほとんどです。
肌が強めの方であっても冬はやはり、ハンドクリームによるケアがある程度必要になります。肌が弱い方ならなおのこと。
『訪問入浴介護』は入浴介助しかしませんから、他の介護サービスに比べて手荒れがひどくなること、ケアが必須になる可能性のあること、考慮しておく必要があります。
オペレーターは道に詳しくなる必要がある
時間が押さないように利用者様宅から利用者様宅へ安全運転で移動することが「オペレーター」の重要な役割の一つです。ゆっくりしていられるのであればスマホのナビをセットして地図を見ながら移動することもできるでしょう。
しかし、利用者様宅から次の利用者様宅へのルートは色々試されながら、もしくはその時々の状況によって最適なルートを探っていくことになると考えておいた方が利口です。
例えば、Aさん宅からBさん宅といったルートだったものが、次の日にはAさん宅からCさん宅といったルートに変更されます。事務所から電話がかかってきてキャンセルの知らせを受けることもあれば、急に工事が始まってルート変更しなければならないときだってあります。つまり地域の道に詳しくなっていることが理想的です。
「オペレーター」として入社した当初は、出勤して準備が終わるとすぐに会社が用意してくれた、名前まで記載されるとても細かい地図を出発するまでずっと見ていました。2~3件の移動ルートを頭に叩き込むのです。ここでしっかり記憶しておかないと、1件目から、もしくは2件目・3件目から遅れてしまうことになるのです。それでは利用者様やご家族、一緒に働く「介護職員」と「看護師」にも迷惑をかけます。
一緒に乗ってくれる「介護職員」と「看護師」の経験が豊富な方であれば、道を覚えてくれていることもあります。しかしいつまでも甘えているわけにはいきません。
昼食時に事務所に戻ると早々に食事を済ませ、やはり地図とにらめっこ。今度は4〜5件もの移動を頭に叩き込まなければなりません。道を忘れてしまい、もし1件目から遅刻してしまったらどうなるのか、想像つきますよね。2件目も遅れ、3件目、4件目、5件目も遅れてしまうのです。この間ずっと心に余裕がない状態で入浴介助をする羽目になります。
休憩中に地図を覚えなければならないのであれば休憩できないじゃんと思うかもしれません。その辺の対応は、入社する『訪問入浴介護』事業所によって異なるかと思います。しっかり労働基準法に従っている会社であれば、独り立ちに慣れるまで出発時間を1件分遅らせ、道を覚える時間を設けてくれると思います。
遅れてもいいように、最初は少ない件数から始めさせてくれるところもあります。独り立ちする前は、先輩職員について4人で『訪問入浴介護』をします。
夏は過酷
これはご説明する必要はないかと思います。『訪問入浴介護』は夏が特に過酷です。まるで川に落ちてしまったのかというほど汗でビチョビチョになってしまう方もいらっしゃいます。逆に汗が止まってしまった場合は危ないですし、常に水分補給と体を冷やすことに気を配らなければならない職業です。
こんな方にオススメ
体力仕事・力仕事に抵抗のない方にオススメ
ここまでご紹介してきた通り『訪問入浴介護』においては、介護職では珍しく人間関係が比較的良好になりやすいシステムです。
役割分担がはっきりしており目先の目標もわかりやすいです。同じ方向を目指して役割分担のはっきりした3人。そのためチームワークが取りやすいのです。しかも入浴という介護だけ行うので、利用者様とご家族の笑顔という報酬がほぼ約束された、満足度の高い職業でもあります。やりがいが感じやすいのです。
ただし仕事の内容はとても大変。何しろ施設介護や訪問介護でも大変とされる入浴介護しか行わないのです。3人いるとはいえ浴槽を壁などにぶつけず、慎重に運ぶとなると決して軽いものではありません。準備と片付けは瞬時に行わなければならずとても忙しいです。そのため体力仕事・力仕事に抵抗のない方にオススメできる介護職です。
会話に自信のない方にもオススメ
介護という仕事を選んだからといってかなり年上の利用者様との会話が得意だという方は余りいらっしゃらないのではないでしょうか。人によっては閉鎖的で怒りやすく、怒鳴ったり怒ってばかりいる利用者様や意地悪をしてくる利用者様も少なくありません。
しかし『訪問入浴介護』の場合介護する場所が自宅。そのため施設のように知らない場所に監禁されているとか、ここは家じゃないとか、そういった不安を抱えている利用者様はほぼいないと考えてよいと思います。
また、裸になり心地の良い入浴ができるというサービス形態であるためか、利用者様の心も比較的開放的。リラックスされていない利用者様を探す方が難しいくらいで、ほとんどの方がすっきり爽やかな表情をされています。
何か質問してみるだけでもいろいろなことをゆっくりと話してくださいます。もし会話が途切れても、「痛くないですか」とか「痒いところないですか」とか「熱くないですか」とかそういった会話で誤魔化すこともできます。
「オペレーター」においては、入浴車側(外)での仕事も少なくないので、必然的に「介護職員」や「看護師」に比べ利用者様と接している時間も少ない傾向にあります。
会話するとすれば、ベッドから浴槽に移動してからのたった15分間だけ。準備と片付けをしている15分間づつ。合計約30分間は利用者様とお話している余裕がありません。つまり『訪問入浴介護』は他の介護職より会話するハードルがとても低いといえます。