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お風呂場での年間死亡者数は年間約2万人で交通事故の約4倍と推計されている
厚生労働省が好評したデータのよると、年間おおよそ2万人もの方が浴室で死亡しているとのことです。交通事故と比較するとなんと約4倍です。
出典:厚生労働科学研究費補助金 「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」 平成25年度 総括・分担研究報告書 研究 代表者 堀進悟
出典:「入浴中に心肺停止(CPA)状態におちいった全国 9360 件の高齢者データ分析」平成26年3月26日 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
独立行政法人国民生活センターの調査によると、居室やキッチンでの事故は、お風呂場での事故に比べてそれぞれ約10倍の事故が発生していますので、屋外より屋内の方が危険だらけだということがわかります。
出典:「医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故 -高齢者編-」平成25年3月28日 独立行政法人国民生活センター
死亡の原因は事故と血圧
お風呂場での事故が多い理由は段差と滑りやすさ
お風呂場での事故の原因の大半は、段差や滑りやすさによる転倒です。転倒に比べて数は少ないですが、火傷や溺れるなどの事故もあります。火傷や溺れる場合、軽度では済まないことが多く、重症または死亡に至る割合が高い傾向にあります。
急激な温度変化による血圧の急変動「ヒートショック」
お風呂場での危険は、事故ばかりが注目を集めがちですが、実は急激な温度変化による血圧の変動「ヒートショック」も脅威です。高齢者に限らず、若い方もとても危険。
暖かい部屋から寒いお風呂場に行くと、血管が急激に収縮。血圧が上昇します。熱いお湯に浸かると血管が拡張され、今度は急激に血圧が低下します。浴槽から出るとまた血管が収縮。再度血圧が急上昇するのです。怖いですね。
「ヒートショック」は、体のとても大事な部分である脳や心臓に大きな負担を強いるのです。そのため、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などの原因にもなり得ます。
住宅の構造と大きく関係するお風呂場の危険
沖縄・北海道におけるお風呂場での死亡者数は最も少ない
東京都健康長寿医療センター研究所では、「都道府県別にみた高齢者1万人あたりCPA件数(件)」も公表しています。入浴中に心肺停止してしまった高齢者の人数で、最も数が少ない都道府県はなんと、最も寒い地域と最も暑いだろう地域、北海道と沖縄です。
出典:「入浴中に心肺停止(CPA)状態におちいった全国 9360 件の高齢者データ分析」平成26年3月26日 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
次に、国土交通省の公表するデータにある、厚生労働省の「人口動態統計(2014年)都道府県別・死因別・月別からグラフ化」をみてみます。これによると、冬季死亡率が最も少ない都道府県はやはり北海道です。
出典:「断熱改修等による居住者の健康への影響調査 概要 -」 国土交通省
「急激な温度変化を原因とするのであれば、日本で最も寒い北海道での死亡者が多くないとおかしくない。」と思った方は私だけではないはずです。
しかし、北海道での冬季死亡率やお風呂場での死亡者数は最も少ないのです。たまたまではありません。誰もが納得できる理由があります。北海道では、高気密・高断熱住宅が普及しているからです。
2000年ごろまでは、日本の住宅にも気密性の最低基準「C値」という数値が、地域ごとに決められていたそうです。数値が少ないほど気密性の高い住宅ということになります。当時の基本的なC値は5以下。世界的に見ると気密性がとても低い基準なのだそうです。
北海道に関してはC値2以下と決まっていたので、他の地域に比べて高気密・高断熱住宅が普及しているのです。
世界的に基準が設けられているのには理由があります。高気密・高断熱住宅にはメリットが多いからです。エアコンによる空調管理がしやすく、省エネ。壁の中の湿気を抑え、臭いの発生を防ぐことが容易になります。湿度や温度の安定を図りやすく、人体への影響が少なくて済みます。
わかりやすくまとめると、北海道は最も寒い地域にもかかわらず、家の中は最も暖かい地域だということになります。最も急激な温度変化が起こりにくい環境、それが北海道です。
入浴時の死亡を減らす安全対策16選
たった一手間ですぐにできる5つの対策
入浴30分〜1時間前より居室内の温度を下げておく
「ヒートショック」が、急激な温度変化を原因とするのであれば、温度変化を急激にしなければ良いという発想です。入浴の30分〜1時間前より、暖房器具を止めたり、温度を下げるなどして、お風呂場の温度にゆっくり近づけておきます。
シャワーでお湯を張るまたは入浴10分前にシャワーを出しておく
シャワーを出すと、もくもく蒸気が浴室全体を温めてくれます。そのため、浴室に入った際の温度差が少なくて済みます。
シャワーの温度は41度以下、湯船のお湯は37度〜39度
高齢者の多くは42度以上の湯船を好んでいる方が多いようです。42度以上の湯船にもメリットがあり、全てを否定することはできません。疲れやだるさを感じているときにはオススメです。
しかし高齢者にはお勧めできません。42度以上の湯船は心拍数をあげますし、湯船から出た時の温度差が激しくなります。急激な温度差は、何度もご説明した通り「ヒートショック」の不安があります。
39度〜42度の湯船であれば比較的安心ですが、血液の循環をよくする温度です。「ヒートショック」を考えた場合、湯船に入る前と出た後の温度差は小さい方が安心です。
鎮静作用のある37度〜39度であれば、最もリラックスができ、温度差も小さくて済むので高齢者にお勧めです。入浴剤で香りをつければさらにリラックスできます。脈拍を落とし、血圧を低くする効果も期待できるので、高血圧気味の高齢者にはなおおすすめです。
簡単に給湯温度を変更できるのであれば、シャワーの温度は41度がおすすめです。39度〜42度は血液の循環をよくしますので、首、肩、腰など、部分的に温めることで、コリの解消に役立てることができます。
あくまでも「ヒートショック」を避けるための温度設定です。疲れやだるさの解消を最優先に考えれば42度以上、血液の循環を最優先に考えるのであれば39度〜42度がオススメです。時の場合、入浴する方の健康状態によって使い分けましょう。
入浴する時間を14時〜16時の間にする
人の生命を維持する生理機能のピークは14時〜16時だそうです。生理機能のピーク時に入浴すると、温度差への適応がしやすいとのこと。
また、食後1時間以内は血圧の変動が激しいのでその時間は避けたいところ。14時〜16時であれば、昼食の1時間以内には入らないのでぴったりです。
温度の差の問題もあります。朝や夜は気温が下がってきますから、朝や夜の入浴は急激な温度差を作ります。14時〜16時なら、比較的まだ気温が高い時間帯ですので、入浴時の温度差が少なくて済みます。
入浴後に必ず家族に連絡してもらう
入浴時間を14時〜16時などのように定時にして、入浴後には必ず家族に一声かけてもらいます。こうすることで、連絡がない場合には何かあったのではないかと、事故や「ヒートショック」に早期に対応することができます。
安くて比較的すぐにできる7つの対策
脱衣所用に暖房器具を設置する
衣類を脱いで裸になる場所が脱衣所です。この脱衣所に暖房器具を設置しておけば、温度差が少なくて済みますので、「ヒートショック」のリスクが減少します。ヒーターなどのように、脱衣所を圧迫せず、触れても火傷しないものを選びましょう。
吸盤付き浴槽椅子を設置する
若くても、椅子から立ち上がるより、地べたに座った状態から立ち上がる方が大変です。筋力が低下している高齢者であればなおのこと。そこで、浴槽内に10〜20cm程度の高さの吸盤付き浴槽椅子を設置します。浴槽椅子に座って入浴すれば、立ち上がりの際の事故を防ぐことができます。
洗い場にシャワーチェアを用意する
吸盤付き浴槽椅子と同じ理由ですが、椅子は高い方が立ち上がりや座る際に安心です。私たちが一般的に利用しているバスチェアは高さが低すぎます。足腰の筋力が低下している高齢者がバスチェアに座るとなるとかなり危険。シャワーチェアなら高さもありますし、背もたれや肘掛けがついているものもありますので安心です。
浴槽や洗い場に滑り止めを用意する
吸盤付き浴槽椅子、シャワーチェアとの相乗効果に期待できる滑り止め。吸盤タイプのものや貼り付けるタイプのものがあります。筋力が低下する高齢者は、特に浴槽での立ち上がりが危険です。
踏ん張りがきかない滑りやすい状態では、後ろにひっくり返ってしまう恐れがあります。最低限、浴槽内にだけでも滑り止めを設置しておきたいところです。
足裏洗いマットを用意する
あると便利な足裏洗いマット。筋力が低下しているので足の指、足の裏を洗う際はとても危険です。前かがみ、または膝上に逆の足を乗せなければならないので、そのままずり落ちてしまったり、左右に倒れてしまうなどの不安があります。
足裏洗いマットなら、足を動かすだけで足の指、足の裏を洗うことができるので、両手があきます。手すりや肘掛けにつかまりながら洗うことができるので安心です。
浴槽のふちに手すりを設置する
浴槽のふちを両サイドから強く挟んで固定することのできる手すりや吸盤タイプの手すりが販売されています。パナソニックの製品でも1万円くらい。ただし、体重をしっかり支えられるものでなければ逆に危険。また、出入りを考慮した設置が必要です。慎重に製品選びましょう。
脱衣所・浴室の窓ガラスに断熱シート、断熱フィルムを張る
北海道の住宅構造から、高気密・高断熱が室内の温度を逃さないことがわかったかと思います。気密性に最も影響を与えているのがドアや窓ガラスです。そこで、窓ガラスに断熱シート、断熱フィルムを貼って、冷えにくい状態を作ります。断熱シートほどではありませんが、カーテンを設置するだけでもかなり違います。
高価で時間がかかるので、家族に相談してから行いたい4つの対策
浴室暖房乾燥機を設置する
浴室暖房乾燥機があれば、浴室や脱衣所全体を温めることができます。温度差を少なくなるので大きな「ヒートショック」対策になります。しかし、通常のエアコン同様、工事が必要で1〜10万円くらいのお値段がします。導入費用だけでなく電気代も発生。家族に相談してから設置を考えたいところです。
窓の交換、またはリフォームを行う
家の中が寒くなる大きな理由である窓。これを交換してしまえば、脱衣所も浴室もかなり暖かくなりやすい環境にすることができるでしょう。窓ガラスだけ交換する場合が最も安く、サッシごと交換するリフォームが最もお金が発生します。窓を二重にするリフォームの選択肢もあります。
住宅改修リフォームを行う
手すりの設置、段差の解消、浴槽を浅く、入口を広くするなどの住宅改修リフォームを考えます。要介護認定を受けている方のお住まいであれば、20万円以内に限り1〜2割負担でリフォームできます。バリアフリーリフォームになりますので、事故のリスクがかなり減少します。
高断熱・高気密住宅を考える
もし新築や引越しを考えているのであれば、北海道の住宅のように高断熱・高気密住宅がオススメです。「北海道 住宅 断熱」などと検索してみれば、北海道基準の高断熱・高気密で建築してくれる建築会社や、住宅を探すことができます。