親の認知症が悪化、もしくは入院して意識が戻った時には意思疎通することができなかった場合において、介護保険サービスの料金のお支払いや入院費用、どうしますか。
入院している本人名義の銀行口座に預金されるお金は、本人以外引き出すことができません。それは、同居するご家族であっても夫婦であっても、本人以外は引き出すことができないのです。
そんな困った時に必要とされるのが『成年後見制度』です。今回は、『成年後見制度』についてご紹介します。
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認知症は制限行為能力者として民法に保護される
認知症の方は、判断力が十分ではありません。判断力が十分ではないので、他人を簡単に信用してしまい、何らかの物を購入する契約を締結させられてしまうこともあります。
例えば、車の運転をすることができないにもかかわらず、車を購入する手続きをしてしまったとします。値段は500万円。
認知症で、運転することもできないのに、500万円を支払わなければならないとしたらどうでしょう。世の中世知辛すぎると思いませんか。
そこで民法では、認知症のように、判断力が十分でない場合の契約は「無効」になったり、「取り消し」することができるようにしてあるのです。
認知症という理由があっても、家族・夫婦は預金を引き出せない
親の認知症が悪化してきたので、介護施設への入所を考えたとします。介護施設入所する際のお金は、まず第一に親のお金からお支払いしようと考えるのが自然です。
親が突然、救急搬送されました。お医者さんには、脳梗塞との診断を受けます。後遺症として、半身麻痺と認知症を発症する可能性があると言われました。
意識が戻ると、明らかに言動や行動がおかしく、やはり認知症と診断されました。今後家族として、どのような対応をしていくのかを考えなければなりませんが、目先の入院費用をまずどうにかしなければなりません。
やはりまず考えるのは、本人の銀行口座の預金です。しかし、どのような事情であれ、本人以外は預金を引き出すことができません。
本人の通帳と印鑑があっても引き出すことができない
たとえ本人の通帳と印鑑があったとしても、本人が直接出向くか、委任状を書いてもらうかしない限り、家族だろうと、夫婦だろうと、本人以外は引き出すことはできません。
家族であることや夫婦であることを証明(身分証明)しても同じことです。「何で?」と思うかもしれませんが、自分に置き換えてみたら当然のことだと理解することができるはずです。
もし、あなたの通帳と印鑑を家から勝手に持ち出し、銀行が家族だから、夫婦だからと、あなた以外の方に勝手に預金を払い戻ししたらどうでしょう。
困りますよね。そのため、本人以外の方は委任状なくして預金の払い戻しができないように、法律でも決められています。安心ですね。
安心な法律ではありますが、認知症になるとこれがとても不便になります。認知症なので、意思能力が欠けているとされる「制限行為能力者」とされます。
もちろん、委任状をかけるはずもありません。本人の意思に基づかない(意思能力がそもそもない)預貯金の引き出しは認められませんし、委任状がなければ、家族でも夫婦でも、お金を引き出すことができないのです。
キャッシュカードと暗証番号をあらかじめ知っている場合でも証明できるようにしておくこと
キャッシュカードと暗証番号をあらかじめ親に聞いていて、知っていたのであれば、問題なく銀行口座からお金を引き出すことができます。
ただし、ここで注意をしておかなければならないのは、そのお金の引き出しが、本人の意思に基づいたものではないということです。
なにしろ認知症なので、意思に基づくも何も、意思能力がないとされている状態だからです。そのため、認知症の親の銀行口座からのお金の引き出しは、違法になりえます。
しかし、出金されたお金が、親本人のために使用されていたのなら、親には何の損害も生じませんし、不法行為にも、不当利得にもなりません。
違法にはならないので、お金を変換しろと言われることもありません。『成年後見制度』を利用して、「成年後見人」が就任した場合には、本人の財産について調査が入りますので、出金したお金について追求されます。
他のご家族、例えば兄弟姉妹が出金の事実を知れば、何らかの揉め事に発展する可能性もあり得ます。
そのため、認知症だから仕方なく、親の意思に基づかずに、銀行口座からお金を引き出した場合には、いつ誰が何の目的に出金したのかノートなどに書き込み、本人の為に使ったことを証明する契約書、領収書などを一緒に貼り付けておきましょう。
介護施設に入所することも(介護保険サービスも利用)できない
親が脳梗塞で入院したと思ったら、そのまま認知症になってしまいました。後遺症として半身不随が残ってしまいましたし、退院後は介護施設への入所を考えたとします。
キャッシュカードと暗証番号をあらかじめ知っていたから、もしくは親孝行の一環として、親の預金に頼ることなく、自分たちで介護施設のお金を支払うと決めたとします。
この場合、親の銀行講座から預金を引き落とすことがないので、問題ないように感じますが、結局は銀行預金を引き落としできない状況と何ら変わりありません。
なぜなら、認知症なので本人に意思能力が欠けており、「制限行為能力者」とされているから、契約することができないんです。
その他、身上監護(治療、療養、介護)、不動産の処分、相続手続き、保険金受取もできない
親が認知症になり、自分の意思で、銀行口座からお金を引き出せなくなったり、介護保険サービスの契約ができなくなると、家族や夫婦でも代わりに行うことができなくなります。
しかし、できなくなるのはそれだけではありません。法律行為の一切合切全てができなくなります。
例えば、身上監護(生活、治療、療養、介護)に関する契約行為もできなくなります。入院したからと、生命保険金を受け取ろうと手続きすることもできません。
介護施設の入居一時金を用意するため、誰も住まなくなる親の家(不動産)を売却しようとしても、その契約もできません。
認知症の親が相続人の一人だった場合の、相続手続きをすることもできません。認知症になった本人はもちろん、その家族や夫婦でも何もできないのです。
認知症高齢者の代わりに財産管理や身上監護を行なってくれる成年後見制度
『成年後見制度』とは、認知症になって、判断が不十分になった人の代わりに、法律面や生活面で保護し支援する制度をいいます。
具体的には、介護保険サービスを利用する際に契約や施設の入退所手続きをしてくれます。それに必要なお金を親の銀行口座から引き出したりはもちろん、高額な商品を買ってしまった場合にも守ってくれます。
上での例で言えば、500万円の車を購入するという契約を取り消してくれます。取り消しされると、契約は初めから無効になるので、500万円を支払わなくて済みます。
上でご紹介して、本人にも家族にも配偶者にもできなくなってしまった法律行為が、『成年後見制度』を活用すればできるようになるのです。
成年後見制度が守ってくれる「財産管理」
『成年後見制度』では、以下のように、認知症高齢者の様々な財産を守ってくれます。
- 印鑑や通帳、権利証などの保管・管理
- 収支の管理(年金や不動産収入、ローン返済、家賃の支払い、税金、社会保険、公共料金などの支払い)
- 不動産などの管理・保存・処分
- 金融機関との取引
- 生活費の送金や日用品の買い物
- 生命保険の加入、保険料の支払い、保険金の受け取り
- 遺産相続などの協議、手続き
箇条書きにした上でご紹介する「財産管理」をするとともに、原則として1年に1回、家庭裁判所に後見事務報告書、財産目録、収支状況報告書を作成して提出する必要があるので、とても安心な制度といえます。
成年後見制度が守ってくれる「身上監護」
『成年後見制度』では、以下のように、認知症高齢者の生活、治療、療養、介護を守ってくれます。
- 介護施設を含めた住まいの契約・更新、家賃の支払いなど
- 介護保険サービスの利用手続き
- 健康診断などの受診・治療・入院費用の支払いなど
- 医療機関に関する各種手続き
成年後見制度という名の法律が認知症高齢者の財産を預かる制度
『成年後見制度』を利用すると、ご家族や配偶者は、認知症の親の財産に関係するものに、一切直接関係することがなくなります。
通帳や印鑑はもちろん、不動産関連の契約書や生命保険関連にいたるまで、何もかもが『成年後見制度』によって立てられたれた、法定代理人により取り扱われることになります。
そのためご家族が、認知症になった親のために使うからと、「親の銀行からお金を引き出してきてください。」と法定代理人にお願いしても、渡してくれることはまずありません。
必要であると判断されれば、その製品やサービスの会社に直接振り込まれることになるでしょう。このようなきっちりした制度なので、悪い家族がいても安心です。