Contents
- 1 排泄介助の回数を減らすべき6つの理由
- 2 トイレ誘導・オムツ交換の回数の減らし方
排泄介助の回数を減らすべき6つの理由
利用者様にとって排泄介助は心地悪い
排泄は人が生きていく上で必要不可欠な行為です。赤ちゃんの頃であれば何の抵抗もなく排泄の援助を受けられていましたが、物心つくと羞恥心が芽生えてきます。歳を重ねれば重ねるほどに、失敗することが恥と感じるようになります。
当たり前ですが、匂いをかがれたくなんてありません。排便はもちろんですが、排尿であっても、自分が出てすぐにトイレに入られたくありません。一緒にトイレにこもるだなんて論外です。それは高齢者であっても同じ。しかし身体機能の低下は羞恥心を無視します。
当記事を読んでいる介護従事者の中で、入院し、排泄介助を受けた経験を持った人がいますでしょうか? 私の場合羞恥心よりも申し訳なさと気まずさ、更には情けなさを感じていました。黙って排泄介助されていることが気まずくて、無理して一生懸命話しかけたりしていた記憶が残っています。なんともいえない心地悪い感情。
排泄介助されたくなくても自分ではできませんし、不潔にしたまま病気になるわけにもいきません。生きていることが申し訳なくなってきます。治る病気であれば一時の我慢で済みます。しかし高齢者の場合は一時的とは限りません。
「生理的欲求」が満たされない状態は余裕がない
排泄という生理現象が十分に満たされていないと、自分の身の安全や周りの人に対する優しさなど、考えている余裕がありません。入院し自分で十分な排泄ができなくなることで、身を以てマズローの欲求5段階説が正しいのだと実感させられました。
尿道カテーテルを外したばかりの頃、尿意を感じてから何時間もベッド内で排尿することができず、看護師さんを呼んで強く言ってしまったことを今でも後悔しています。3時間以上、排尿しようと試行錯誤しましたが排尿することができない状態で、心に余裕がなくなってしまったのです。
頭の中は尿のことだけでいっぱい。それ以外のことは何も考えられないし、何も目に入りません。トイレに行きたいなと思ってから3時間以上尿を出せない状況。膀胱が張っていることがわかるほどに苦しくて苦しくて、術後始めて立ち上がって尿器に排尿しました。
看護師さんは急に立ち上がったことにびっくりし、手を添えるくらいにはふらついていたと思います。それほどに余裕がなくて、イライラしたような言い方で「立ってしていいですか?」と質問している最中に、看護師さんの返事を聴くまでもなく立ち上がったのです。そして尿器に尿がたまっていくことに比例して心が落ち着いていき、「あれ? 今看護師さんに、かなりきつい言い方をしてしまったな……」と気がつくのです。
つまり、利用者様の本心から望む排泄ができない状態では、「自立支援」に近づけることができません。「生理的欲求」を飛び越えて他の欲求を満たすことはできないのです。
定時に行う排泄介助は、仕事をしている気分にはなりますが排泄したタイミング、尿意を感じるタイミングを無視していることを忘れてはなりません。最も満足のいく排泄介助とは、排泄介助をしていないときと排泄介助をしているときの両方が、できる限り不快の少ない状態です。
今時の尿取りパッドやオムツは尿を吸収してもサラサラ
オムツの会社の人が行うプレゼンに、ぜひ参加することをおすすめします。たっぷりの水分を吸収しても尿取りパッドやオムツの表面がサラサラであることが嫌という程わかります。特に夜用の尿取りパッドやオムツの場合、一晩中交換しなくても皮膚トラブルにつながらないよう、サラサラのまま維持する機能と性能を有しているのです。
できればオムツの会社の営業さんにもサービス担当者会議にご参加いただき、利用者様ご本人とご家族の理解も得られるようにしておくことが理想的です。トイレ誘導・オムツ交換の改善がスムーズになります。
減らして欲しい人とすぐトイレ誘導・交換して欲しい人
トイレ誘導・交換の頻度やタイミングに、利用者様本人が心地悪く感じないように努力が必要です。尿取りパッドやオムツの性能・機能を超えるなどして、お肌のトラブルの原因になるのであれば、トイレ誘導・オムツ交換の回数を簡単に減らすことはできません。
しかし尿取りパッドやオムツの性能や機能の助けを得ることで、利用者様本人が心地悪さを感じておらず、お肌のトラブルの原因にならないのであれば、できる限り回数を減らした方が、本人にとっていい場合もあります。あきらめの境地に至っていなければ、排泄介助の回数は少ないほどいいからです。
トイレに行く人であれば、何度もトイレに行くことを嫌がっている場合が多いと思います。寝たきりの人も同様。睡眠を阻害されてまでオムツ交換をされることを、言わないだけで嫌がっている人も少ないいはずです。
そもそも介護の現場におけるトイレ誘導・オムツ交換は、利用者様目線ではありません。利用者様一人ひとりの個人差を考慮せず3〜4時間おきにまとめてトイレ誘導・オムツ交換をしているからです。頻尿になる薬を飲んでいる人も飲んでいない人も、尿量が多い人も少ない人も、全員まとめて同じタイミング。自分がされる側に立てばわかりますが、嫌がらないはずがありません。
尿意を感じ、しっかりしている人であればなおのこと。高齢者じゃないので、入院中の私は排泄に関して放置されていました。自分で看護師さんを呼んでいたのです。定期的に排泄介助を強制されなかったので、その点ストレスがなく助かりました。一方利用者様となると、比較的排泄介助が強制的です。ストレスを感じないはずがないのです。しかも3〜4時間おきにストレスが押し寄せてくるのです。
介護職員や支払いの負担も減るので一石五鳥
利用者様一人ひとりの排尿回数や尿量をしっかり把握するのは少し面倒です。しかしある程度把握することができれば一人ひとりに合わせた排泄介助ができるので、利用者様一人ひとりの不快が減ります。
3時間おきに排泄介助を行なっている場合1日8回。4時間おきに排泄介助を行なっているところであれば1日6回の排泄介助を行なっています。1回の排泄介助に10分必要な場合、1人の排泄介助に1日1時間から1時間20分も使っていることになります。
もし尿意を感じていない方で、オムツや尿取りパッドを原因とする不快やスキントラブルがないのであれば、オムツや尿取りパッドの性能に頼ることで、トイレ誘導・オムツ交換の回数を減らすことができます。
オムツや尿取りパッドの交換が減ればオムツ関連の請求を減らすこともできます。オムツ関連の請求が減れば介護保険外のサービス利用に使ってくれる可能性も増えます。介護職員の負担が減るメリットはもちろん、その時間を使って尿意ある人を尿意あるときにトイレ誘導することも可能となります。
定期的な排泄介助という常識を覆す=排泄介助の回数が減って余裕が出る
私がグループホームに勤めていた時、利用者様一人ひとりの個人差に着目した排泄介助に改善しました。定期的な排泄介助をしていた時、夜勤者の排泄介助の回数45回でした。しかし個人差に着目した排泄介助に変えたら、排泄介助の回数が20回に減少しました。
利用者様9人。夕食後と22時、0時、3時、起床時のトイレ誘導・オムツ交換を行なっていたので、本来であれば45回の排泄介助をしていました。
改善後は、夕食後と起床時のトイレ誘導・オムツ交換だけに変えることができました。一人だけ尿量が多く、0時前後に1回オムツ交換をする必要がありました。そのため20回。他の利用者様に関しては、起床時間まで尿漏れすることがなかったのです。
意思表示できる人はあらかじめ利用者様本人の言葉を聞き、ご家族には本人のお気持ちと上記のような説明をして、ご理解頂いた上で改善しました。
お肌の問題もありますので、体位交換の際睡眠を阻害しないよう、尿漏れしていないかどうかのチェックをしました。しかし一人ひとりの排尿量を把握しているので、尿漏れすることが少なくお肌の問題も発生しませんでした。
※薬・食事・水分摂取量などで尿量が大きく増える場合には、尿漏れすることもあります。
トイレ誘導・オムツ交換の回数の減らし方
トイレ誘導・オムツ交換の回数減少のゴール
トイレ誘導・オムツ交換の回数を減らす行為そのものは手段です。それを忘れないようにしましょう。トイレ誘導・オムツ交換の回数を減らす目的は、利用者様の快適な生活と、介護職員の無駄な負担の軽減です。
利用者様の快適な生活と、介護職員の無駄な負担の軽減を達成するための手段がトイレ誘導・オムツ交換の回数の減少になります。トイレ誘導・オムツ交換の回数現象を目的にしないよう注意しましょう。
トイレ誘導・オムツ交換の回数減少で期待できること
- 介護職員の負担軽減
- 利用者様の嫌がる排泄介助の減少
- オムツ代削減による介護保険と外部サービス料の向上
- 排泄介助時間減少により尿意あるときのトイレ誘導増加(自立支援)
- オムツの当て方教育・育成
- 利用者様の睡眠時間の確保と日中覚醒
尿量計測期間を決め、環境を整える
2〜3日間の期間を決めて尿量を計測します。施設系の場合そのほかの仕事で忙しいことと思いますので、一人ずつもしくは二人ずつなど、少人数ずつ計測することになります。計測するときはほかの仕事を削減するなどの対応も必要になるでしょう。
尿量の個人差を知る
膀胱容量は通常300〜500mlです。通常と呼ばれる範囲内であっても個人差が大きい傾向にあります。加齢に伴い膀胱容量は減少傾向にあるので、高齢者の場合はより個人差が大きいといえます。
中には150mlと通常の半分程度しか膀胱に尿をためられない方もいらっしゃいます。このような利用者様が、1日の正常な尿量1,500mlを排泄するとしたら、1日に最低でも10回トイレに行くことになります。
もし3,000mlを超える多尿な状態であれば1日に20回もトイレに行かなければなりません。このように「膀胱容量」「排尿回数」「排尿量」には個人差があり、とても差が大きいことを理解しておく必要があります。
利用者様一人ひとりの尿量を測る
上の表をダウンロードするか、もしくは上の表を参考にして表を自作します。さらに、以下に記載する必要なものや準備を整えたら実際に尿量の計測をしていきます。
必要なもの
トイレ誘導する方 記入表・採尿容器 オムツに排尿する方 記入表・ポリ袋・オムツ・台計り(2Kgまで)
トイレ誘導する方
トイレ誘導する利用者様の場合、リハビリパンツなどに排尿していてもしていなくても、一度トイレに座ってもらうと思います。この際トイレに排尿してくださることもあるかと思います。いつもであればそれで問題ないのですが、計量するときにそのままトイレに排尿されては排尿量を測ることができず困ってしまいます。
そこで登場するのが「採尿容器」です。「採尿容器」は幅がおおよそ30cmあり、便器と便座の間に挟んで採尿することができます。排尿の計量時はもちろん、健康診断などで尿を採取しなければならない時でも比較的簡単に採尿できるので便利です。
オムツに排尿する方
オムツに排尿する人に必要なものは、オムツを入れるためのポリ袋とオムツの重さを測るための台計り(2Kgまで)です。台計りは1Kgまでのものでも良いのですが、オムツの重さも考慮すると2Kgまであるものの方が安心。
アナログな台計りはかさばりますし、なぜかとても高額なので、料理用のデジタル台計りをおすすめします。あらかじめポリ袋とオムツ類の重さを測っておきます。排尿後のオムツ類を計量し、ポリ袋とオムツ類の重さを引いたものが尿量になります。
尿取りパッドやオムツの吸水回数からトイレ誘導・オムツ交換の回数を決定する
吸水回数10回分の尿取りパッドなら1日1〜3回の排泄介助で済む
2〜3日間の排尿量の計量が終わったら、利用者様にあったトイレ誘導・オムツ交換の回数を決めていきます。
多くのオムツ会社は、1回の排尿量を150mlとして吸水回数を記載しています。例えば1日おおよそ1,500mlの排尿をされている利用者様がいたとします。
吸水回数10回分なる尿取りパッドも販売されていますので、極端な話1日1,500mlの利用者様にこの尿取りパッドを採用すれば1日1回のパッド交換だけで排泄介助が済んでしまうということになります。実際にはご本人様の不快感の有無、お肌の問題、感染症の問題、衛生上の問題、排便など、様々な理由で1日に2〜3回の排泄介助になると思います。
1回の排泄介助に5分かかっている場合でしたら、1人15〜25分も時間の短縮ができます。
夜と昼と尿取りパッドの種類を変える
夜間は本来「抗利尿ホルモン」が分泌されるため寝ている間の排尿は0回です。しかし加齢に伴い「抗利尿ホルモン」が十分に分泌されなかったり、本来の効力を発揮できなかったりするので、夜間多尿になりがち。
なりがちというだけで個人差は大きいです。尿量を計量しておけば利用者様の一人一人の夜間多尿か正常かしっかり把握することができるので、それに合わせて尿取りパッドの種類を変えることもできます。
日中は人の目に触れることを考慮すると、できる限りかさばらない薄めの尿取りパッドやオムツの着用を考えたいところです。尿量と吸水回数との問題もありますので、バランスを考えた尿取りパッドを選ぶ必要があるでしょう。
夜間の場合睡眠を阻害しないためにも、睡眠から起床まで一晩中オムツ交換の必要がない吸収回数を有する尿取りパッドを選択する必要があります。
利用者様の体重によって水分摂取量も改善する
1日に必要な水分摂取量は体重によって異なります。体重に関係なく1日に必要な水分摂取量を2Lなどと一律に決めている場合、体重の少ない利用者様にとっては過剰摂取になってしまいますし苦痛でしかありません。拷問に水責めという手段があることを忘れないようにしましょう。
虐待的にさせないためにも、しっかり体重ごとに必要な水分摂取量を把握しておきます。水分は食事からも補給しています。おおよそ500mLの水分を食事から吸収できると言われています。そのため食事とは別に補給する水分摂取量はだいぶ少なくなります。おおよそですが、適切な水分量は体重(Kg)×25〜35mlです。
体重60Kgの方であれば1,500〜2,100mlです。食事から約500ml補給していると考えると、水分だけで約1,000~1,600mlの水分が必要だということになります。
体重40Kgの方であれば1,000〜1,400ml。食事の約500mlを差し引くと500〜900ml。つまり、一律で1,500mlや2,000mlと決めていた場合は過剰摂取ということ。水分の過剰摂取は、水分不足と同じくらい身体に悪影響を与えると言われています。また多尿も多くなります。
体重の少ない利用者様に関しては、体重から1日に必要な水分量を計算したうえで、あらかじめ医師に相談しておくと安心です。
回数を減らした後は、状態記録と尿漏れ回数の集計を行い改善する
快・不快の確認、お肌、尿の色やにおいの観察と記録を怠らない
当たり前のことですが、利用者様本人の快・不快の確認、お肌、尿の色やにおいの観察と記録を怠らないようにしましょう。本人の口から快・不快の確認ができないのであれば、お尻のムレ具合などを確認して通気性を確保する工夫も必要です。
お肌の異常などの確認はもちろん、尿の色に異常がないか、尿のにおいが強くなっていたりしないかなどしっかり観察して記録します。
尿取りパッドの吸収量を超える排尿が原因の尿漏れ回数を毎月集計
記録用紙には、尿漏れ回数を記録して毎月集計します。あまりにも尿漏れが多くなった場合には、その原因を探り改善する必要があります。
例えば1回150ml、吸収回数5回の尿取りパッドから尿量を集計したところ、750mlを超える尿量があり、尿漏れをしていたとします。これが月に5回も発生していました。この状態を放置してはその都度衣服の着替えを行なっていることになるので、より利用者様と介護職員に負担をかけていることになります。
尿取りパッドの吸収量を超える排尿があったことが明らかですので、吸収回数6回の尿取りパッドに交換するか、排泄介助の回数を1回増やすなどの対応が必要です。
尿取りパッドの吸収量を下回っているのに、尿漏れ回数が多い時
例えば1回150ml、吸収回数5回の尿取りパッドから尿量を集計したところ、400mlの尿量しか計量できなかったとします。この場合にはオムツの当て方に問題があります。
尿漏れを防ぐため過剰に尿取りパッドをあてる方もいますが、多くの場合逆効果です。隙間ができてしまうので尿がギャザーでくい止められることなく流れてしまい、尿漏れしてしまっているのです。
この場合吸収回数の多い尿取りパッドに交換したり、排泄介助の回数を増やしても意味ありません。つまり、道具のせいにするのではなく、再度介護職員一人一人にオムツの当て方について教育・育成する必要があるでしょう。
1日9回以上、3,000ml以上など、明らかに異常な場合には医師に相談
1日9回以上、夜間2回以上の「頻尿」。3,000ml以上の「多尿」。500ml以下の「乏尿」「無尿」などの場合には医師に相談しましょう。病気や薬、水分摂取量に原因を見出せないにもかかわらず「頻尿」「多尿」「乏尿」「無尿」なのであれば、体に何らかの問題がある可能性があります。
明らかに「頻尿」なのに本人が困っていなかったり、「頻尿」でないのに本人が悩んでいる場合にも、医師への相談が必要です。ただし、食事・水分量、持病と飲んでいる薬など、様々な要因が重なって、そのような症状になっているとわかっているのであれば、変化があった時にだけ相談します。