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一定の質の確保を目的とする基準(法律)が違う
基本的に介護関連の法律の目的は、高齢者一人一人の日常生活や居住環境などを一定以上の水準に高めること。そのためそれぞれに細やかな基準が設けられています。
サービスによって細かい部分に関する基準が異なりますし、同じ法律によってサービスを規制されているとも限りません。『サービス付き高齢者向け住宅』は「高齢者住まい法」、『有料老人ホーム』は「老人福祉法」と「介護保険法」の規制を受けます。
『サービス付き高齢者向け住宅』は、介護保険サービスや施設としての規制ではなく、都市開発や建設・住宅よりの規制である点で大きく異なります。
国の行政機関の管轄が違う
法律の種類の違いから想像できてしまいますが、『サービス付き高齢者向け住宅』は厚生労働省だけでなく、国土交通省と共管されるサービスです。
『有料老人ホーム』は厚生労働省の管轄。やはり、『サービス付き高齢者向け住宅』はその名の通り住宅サービスといえます。
サービスの定義が違う
『サービス付き高齢者向け住宅』は、「安否確認などの状況把握サービスと生活相談サービス等の福祉サービスを提供する住宅」と法的に定義されています。
『有料老人ホーム』は、「①入浴・排せつ・食事の介護、②食事の提供、③洗濯、掃除等の家事、④健康管理のいずれかをする事業を行う施設」と定義されます。
大雑把にいうと、『サービス付き高齢者向け住宅』が見守りだけのサービス内容で、『有料老人ホーム』は身体介護と生活援助がサービス内容ということになり、違いがはっきりしています。
対象者が違う
『サービス付き高齢者向け住宅』『有料老人ホーム』ともに、「高齢者のための住居」という点においては同じです。ですが、入居対象者が微妙に異なります。
『サービス付き高齢者向け住宅』は60歳以上の方、もしくは要介護・要支援認定を受けている60歳未満の方になります。40歳以上の方の入居は要介護・要支援認定を受けている方に限定され、60歳以上の方は誰でも入居できる住宅ということ。
『有料老人ホーム』はとても曖昧で、対象者は「老人」です。一般的に65歳以上から「老人」とされているので、基本は65歳以上の施設ということになります。介護保険法の規制を受けているサービスなのに関わらず、要介護・要支援認定者だけが対象との決まりがないところに注意です。
契約形態(権利と入居時の費用)が違う
「サービスの定義」に続いて明確に異なる部分です。
『サービス付き高齢者向け住宅』の契約形態は、基本的に「賃借権」または「終身建物賃借権」+「状況把握・生活相談サービス」となります。「賃借権」は、私たちがアパート・マンションを借りる際と全く同じ権利で、借主をとても強く守ってくれる権利です。
よほどのことがない限り貸主は借主に「出て行け。」といえませんので安心。また、旦那さん名義で借りており、夫婦で暮らしている場合において、旦那さんが亡くなってしまったとしても、「賃借権」は相続の対象ですから、奥様が相続すれば出て行かなくても大丈夫。
「終身建物賃借権」は、借主が死亡するまで終身にわたり居住することができる権利。「賃借権」と異なり相続の対象にはなりません。ただし、1ヶ月以内に申し出れば奥様はそこに住み続けることができる場合もありますので、契約時に確認する必要があります。
「賃借権」は、皆さん一度は経験あるでしょうから想像がつきやすいと思います。敷金や礼金を支払えば入居することができます。家賃◯ヶ月分などの広告を見るかと思いますが、入居時の費用は『有料老人ホーム』に比べてかなり少なめとなります。
『有料老人ホーム』の契約形態は「利用権」です。「入居一時金」というお金を支払うことでその施設を利用する権利を購入する形になります。「入居一時金」が0円という『有料老人ホーム』もありますが、その場合は毎月の利用料金が大きくなります。
『有料老人ホーム』の「入居一時金」は一般的に100万円くらい。終身にわたり居室と共用施設を利用する権利と、介護や生活支援サービスを受ける権利が保障されると考えると、一概に高いとはいえません。契約形態と内容が異なるだけで、初期費用が全然違ったものになります。
1人あたりの居住スペースの広さが違う
『サービス付き高齢者向け住宅』の1人あたりの居住スペースは、最低でも25㎡(約15畳)を確保する必要があります。
『有料老人ホーム』の場合は、1人あたりの居住スペースが最低13㎡(約8畳)。倍近い差があります。
『サービス付き高齢者向け住宅』の方がゆったり。数値は法的に定められた最低限度の広さですので、選ぶ『サービス付き高齢者向け住宅』『有料老人ホーム』によって広さは大きく異なります。
キッチンと食堂の違い
『サービス付き高齢者向け住宅』は、私たちがアパート・マンションを借りる際と全く同じ権利で契約する住まいを借りる方式ですので、基本的には居室にキッチンが用意されています。
ただし、共用部分に共同して利用するに適切なキッチンが用意されていれば、各部屋にキッチンを用意しなくても良いことになっています。
『有料老人ホーム』の場合、法的に定められる設備はキッチンではなく食堂です。サービスの定義の違いからもわかるように、『有料老人ホーム』では食事の介護と食事の提供が行われる施設です。そのため、キッチンではなく食堂ということになります。
その他の設備も違うがバリアフリーは共通
『サービス付き高齢者向け住宅』の場合住宅ですから、各居室に最低でもトイレと洗面設備を用意しなければなりません。もちろん、各居室にキッチン、収納、浴室を用意してもいいのですが、もし設置しない場合には、共同して利用するに適切な広さのものを共用部分に設置しなければなりません。
『有料老人ホーム』の場合、最低13㎡(約8畳)と『サービス付き高齢者向け住宅』に比べると狭い居室になっていますので、必ず居室に設置しなければならない設備は決められていません。最低限ベッド(寝床)だけ用意されていれば良いということになります。
こう記載すると、あたかも『有料老人ホーム』のサービス内容が薄く感じられるかと思いますが、高齢者に限ってはそうではありません。
高齢者の場合、心身状態が悪くなってくると転倒しやすい状態になりますので、居室にはできる限り物や設備がない方が安全な場合があります。そのため、居室に設備が何もないことが一概に悪いとはいえないのです。元気な時は設備が充実して便利な方が良いですが、要介護度が悪化してくると、便利な設備が逆に危険ということにもなり得るのです。
『有料老人ホーム』は『サービス付き高齢者向け住宅』と異なり、共用部分に浴室、洗面、トイレ、食堂、医務室等、看護・介護職員室、機能訓練室、談話室等、洗濯室、汚物処理室、健康・生きがい施設、事務室、宿直室などが必要になります。
『サービス付き高齢者向け住宅』はそれこそアパート・マンションのようですが、『有料老人ホーム』は明らかに施設といった感じの雰囲気になります。さらに細かい部分での設備の差がありますが、ここでは省きます。両方ともバリアフリーである点は同じ。
スタッフの数が違う
見守りサービス付き賃貸住宅である『サービス付き高齢者向け住宅』では、介護福祉士やヘルパーなどの専門家が最低1名、9時〜17時の間だけ常駐していれば良いことになっています。最低限の決まりですので、夜間にスタッフを常駐させているような『サービス付き高齢者向け住宅』もあります。
『有料老人ホーム』の場合は介護施設ですので、要介護者1名に対し介護職員が3名勤務。その他管理者、生活相談員、看護職員、機能訓練指導員、計画作成担当者、栄養士などが配置され、万全の体制です。
サービスの提供方法と支払い方法が違う
『サービス付き高齢者向け住宅』の「サービス付き」の部分は、契約形態でご説明した「状況把握・生活相談サービス」部分を指します。
「状況把握・生活相談サービス」は介護保険サービスではありません。そのため全て実費。毎月、家賃+管理費+水道光熱費+「状況把握・生活相談サービス(毎月1万円くらい)」をお支払いします。『有料老人ホーム』との大きな違いは、介護保険サービスの有無です。
介護が必要となったときには、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、デイサービス、デイケアなどの在宅サービスを個別に契約・利用する必要があります。そのため、家賃と介護保険サービスと食費の支払い先がそれぞれ別になります。私たちの生活と似たような支払い内容となります。
『有料老人ホーム』は介護施設です。賃料+管理費+運営費+食費+水道光熱費+上乗せ介護費+その他の費用+特定施設入居者生活介護費(介護保険サービス)が発生します。生活に必要なすべてが『有料老人ホーム』から提供されますので、基本的に支払い先が『有料老人ホーム』に一元化されます。
『有料老人ホーム』では、介護保険サービスが「特定施設入居者生活介護」になりますので、毎月の料金は定額制。『サービス付き高齢者向け住宅』では、介護保険サービス(訪問介護などの在宅介護)や食費を使ったら、使った分だけ請求が増えたり減ったりする従量制となります。
まだ数は少ないですが、『サービス付き高齢者向け住宅』の中には「特定施設入居者生活介護」を提供しているところもあります。この場合『サービス付き高齢者向け住宅』のように賃貸住宅にもかかわらず、『有料老人ホーム』の要素も兼ねそろえた介護施設となります。
ほぼ『有料老人ホーム』と同じになりますので、料金も定額制。外部の介護保険サービスは原則利用することができません。
居室移動の可・不可が違う
『サービス付き高齢者向け住宅』は賃貸住宅ですので、私たちがアパート・マンションを借りた時と同様に、自分の都合で部屋の変更をすることはできません。もちろん、大家さんの都合で居室を移動させられることもありません。住まいですから、移動ではなく移住。移住は簡単にはできないと考えればわかりやすいでしょうか。
『有料老人ホーム』の場合、施設内での居室移動があり得ます。例えば、隣の人と仲が悪くもめてしまうとか、身体状況が悪化してきたとか、新しい入居者の要介護状態によっても移動が考えられます。そう度々あるものではありませんが、居室移動が少なからず発生します。
自由度が違う
繰り返しになりますが、『サービス付き高齢者向け住宅』は賃貸住宅です。そのため外出も自由。ちょっとした買い物も自由ですし、出前を頼むなんてこともできます。食事や入浴時間なんかも縛られません。施設だと考えていると、少しビックリするかもしれません。
『有料老人ホーム』では外出が自由ではありません。自分の家ではなく施設になりますので、自由に出前を頼むこともまずできません。食事の時間は決まっていますし、入浴できる人や時間も決められています。何もかも管理されるので、病院に似ています。
終の住処になる・ならないが違う
『サービス付き高齢者向け住宅』を最低限の基準で建てた場合、ただの賃貸住宅です。そのため、要介護状態が悪化してきたときに対応できる設備がありません。
またスタッフも、『有料老人ホーム』のような万全の体制ではありませんので、訪問介護や訪問看護では金銭的な負担はもちろん、介護と医療の負担的にも対応しきれなくなります。
環境的に住み続けることが難しく、終の住処になり得ると言い切れません。契約によって、重度化した際の退去が決められている場合がほとんどです。
『有料老人ホーム』の場合、もともと重度の要介護者でも受け入れられる体制が整っているので、『サービス付き高齢者向け住宅』に比べると環境的には終の住処となり得ます。
ただし、医療措置の必要性の増加具合による退去の可能性は高いといえます。『サービス付き高齢者向け住宅』に比べ要介護度の重度化には対応できても、医療行為が多く必要となった状態にまで対応できるとは限らないのです。医療行為を行う設備はありませんし、医者が常駐しているわけでもないのが理由です。
その点『サービス付き高齢者向け住宅』と同様に、『有料老人ホーム』であっても必ず終の住処となり得るわけではないことに注意が必要です。もちろん、ターミナルケア(終末期医療、終末期看護)まで行ってくれる『有料老人ホーム』もあります。
元気な方向けの『サービス付き高齢者向け住宅』
要介護状態の軽い方にとっては、『有料老人ホーム』より『サービス付き高齢者向け住宅』の方がオススメです。初期費用にまとまったお金が必要ありませんし、何より自由です。基本的には、生活の全てを自分で行うことになりますので、心身状態の悪化速度を緩めることになります。
長く元気でいてもらった方が、介護負担も金銭的負担も少なくて済みます。緊急時にだけ対応してくれる見守りサービスだけ付属している点も、高齢者だけでの暮らしに比べて安心。
問題が生じてくるのは、身体介護や生活支援が必要になってきたときです。この場合、訪問看護などのサービスをお願いすることになりますが、『サービス付き高齢者向け住宅』に常駐するスタッフからは、基本的に身体介護や生活支援サービスの提供はなされません。
例えば、オムツを着用する状態にあるとして、訪問介護の時間まで間があるとします。この場合もし尿漏れをしていたとしても、原則『サービス付き高齢者向け住宅』のスタッフはオムツ交換をしません。マンションの管理人がオムツ交換をしないのと同様です。基本的には安否確認と生活相談サービスだけになります。
安否確認と生活相談サービス以上のサービスを提供してくれる『サービス付き高齢者向け住宅』もある
『サービス付き高齢者向け住宅』において、法律で決められている必ず提供しなければならないサービスが、安否確認と生活相談サービスの2つになります。しかし、最低限のサービスが決められているだけで、それ以上のサービスを提供してはいけないとの決まりはありません。
そのため、『有料老人ホーム』と同じか、それ以上のサービスの提供を受けられる『サービス付き高齢者向け住宅』もあります。具体的には、通院の付き添い、買い物や家事代行、食事の提供や車での送迎、サークル活動やレクリエーションなどのオプションサービスです。
これらのオプションサービスは、介護保険サービスとして実施(1〜3割負担)してくれるところもあれば、全額実費で提供してくれるところもあります。どちらにせよ、心身状態に合わせて、必要な分だけ様々なサービスを組み合わせることができるので、『有料老人ホーム』に比べて長く元気でいられる可能性が高いといったメリットがあります。
要介護3以上なら迷わず『有料老人ホーム』
要介護2までの方でしたら、多少の見守りや手助けがあれば、多くのことを自分でできる状態にあります。そのため、訪問介護や『サービス付き高齢者向け住宅』のオプションサービスでも、十分に対応できる範囲だと考えられます。
要介護3になりますと、ほとんどのことが自分一人でできない状態になります。実際、特養の入居条件は要介護度3以上の方からになります。一人での生活が困難な状態です。
『有料老人ホーム』なら、常駐する介護スタッフによる身体介護や生活支援をしっかり提供してもらえます。また、どれだけサービスの提供をされても、定額制ですので金銭的に毎月不安になることもありません。