実家が空き家になったまま、ついそのままにしてしまっている…という方は少なくありません。思い出が詰まった場所だからこそ、なかなか手放す決断ができなかったり、手続きをどう進めていいか分からなかったりと、先送りにしてしまうこともあるでしょう。
日々の忙しさの中で、「また今度考えよう」と思っているうちに、数ヶ月、数年が経っていたという声もよく耳にします。家族の記憶が詰まった家だからこそ、感情的な整理がつかないこともあり、それを理由に何となく目をそらしてしまうのも、自然なことだと思います。
けれども、空き家を放置することにはさまざまなリスクが伴います。時間が経つほど、費用面・法律面・感情面の負担が重くなってしまうこともあります。突然の修繕が必要になったり、固定資産税が予想以上にかかってしまったり、売却の機会を逃してしまったりと、後から「こんなはずじゃなかった」と感じるケースも少なくありません。
「何から始めればいいのか分からない」
「今すぐには無理だけど、いずれ向き合わなければならないと思っている」
「兄弟や親族とどう話せばいいか悩んでいる」
そんな気持ちを抱えている方にこそ、知っておいてほしい情報があります。少しずつでかまいません。最初の一歩を踏み出すことで、心の重荷が軽くなり、現実的な選択肢も見えてくるはずです。
この記事では、空き家を抱えたときに直面する現実と、損をせずに「実家じまい」を進めるための大切なポイントを、やさしく丁寧に解説していきます。実家の片付け、売却や管理、相続にまつわる注意点、そして信頼できる業者選びまで、具体的にお伝えします。
今はまだそのときではないと思っている方にも、いつか来るその日のために、今できることを静かに考えてみるきっかけになれば嬉しく思います。
Contents
実家が空き家になる理由と放置のリスク
多くの方にとって、実家は家族との思い出がたくさん詰まった、かけがえのない場所です。子ども時代を過ごした家には、懐かしい景色やぬくもりが残っていて、簡単に手放すことはできないという思いを抱くのは自然なことです。
しかし、現実には、両親が高齢になって施設に入所したり、病気などを理由に別の場所へ移ったり、または亡くなられたあと、その実家が空き家になるケースが増えています。子ども世代はすでに自分の家族を持ち、仕事の都合などで遠方に住んでいることも多く、「戻って住む」という選択が難しいのが現状です。住む予定がなくても、処分や貸し出しを決めきれないまま月日が流れ、結果として空き家が放置されてしまうのです。
空き家の問題は、単に家が使われていないというだけではありません。実際には、多くのリスクが積み重なっていきます。
まず、誰も住まない家でも維持費はかかり続けます。固定資産税や都市計画税、水道・ガス・電気といった基本的なインフラの維持費、さらに火災保険などの保険料も発生します。マンションであれば管理費や修繕積立金も必要です。人が住まなくなっても家は生きていて、維持するにはお金がかかるということを意識しておく必要があります。
また、家の中を換気せず放置すると、湿気がこもり、カビや腐食が進みます。害虫や小動物が住み着く可能性もあり、衛生面での問題も深刻化します。外からは見えにくいこうした内部の劣化は、気づいたときには修復に多額の費用がかかるケースも少なくありません。
さらに注意しなければならないのが、行政による対応です。老朽化が進んだ家は、周囲にとっても危険な存在と見なされるようになります。たとえば、屋根瓦が落下する恐れがある、雑草が伸び放題で近隣に迷惑をかけている、というような状態が続くと、自治体から「特定空き家」に指定される可能性があります。
「特定空き家」に指定されると、固定資産税の優遇措置が外され、税額がこれまでの数倍になる場合があります。加えて、行政から改善命令が出され、それに従わなければ罰則が科されることもあるのです。
このような状態になると、いざ売却しようとしても買い手が見つかりにくくなり、結果的に家の価値が大きく下がってしまいます。思い出の場所として大切にしてきた実家が、「売れない」「負担ばかり増える」といった存在になってしまうのは、とてもつらいことです。
空き家を放置することは、感情面の葛藤だけでなく、時間の経過とともに費用やリスクが増えていく現実的な問題でもあります。だからこそ、早めに現状を把握し、これからの選択肢を整理しておくことが、自分自身や家族の安心につながります。
実家をどうするか考えることは、心の準備も含めて簡単なことではありませんが、「動けるうちに」「話せるうちに」少しずつ向き合うことが、後悔のない未来につながる一歩となるのです。
早めに動くべき3つの理由
実家じまいにおいて、なるべく早く対応することは、あとで後悔しないための大切な選択です。感情の整理がつかないまま時間だけが過ぎてしまうと、手続きやお金の問題がどんどん複雑になっていきます。ここでは、早めに動くことで得られる3つの大きな利点について、わかりやすくご紹介します。
まず第一に挙げられるのは、維持費の問題です。空き家といえども、所有している以上は毎年さまざまな費用が発生します。代表的なのは固定資産税や都市計画税ですが、それに加えて火災保険料や、場合によっては地震保険料なども払い続ける必要があります。電気やガス、水道などのインフラも、完全に止めてしまうと劣化やトラブルの原因になるため、ある程度は維持した状態にしておくことが多いです。さらに、マンションであれば毎月の管理費や修繕積立金も無視できません。
また、実家が遠方にある場合には、様子を見に行くための交通費や宿泊費がかかることもあります。頻繁に訪れるのが難しい場合、知人や業者に管理を委託することになりますが、それにも費用がかかります。つまり、住んでいない家であっても、毎月の支出は想像以上に積み重なっていくのです。これを放置してしまうと、気づいたときには大きな負担になっていることもあります。
次に、家財の整理についてです。多くのご家庭では、生活感のある状態のまま空き家になってしまい、家具や衣類、書類、思い出の品などがそのまま残されていることが多いです。このような状態での整理は、精神的にも体力的にも大きなエネルギーが必要です。家の中に詰まったモノたちには、それぞれ思い出があり、処分を決めるのがつらく感じられることもあるでしょう。
また、一人では手に負えない量の荷物を、仕事や家庭と両立しながら片付けるのは簡単ではありません。整理を始めるまでに時間がかかってしまったり、途中で止まってしまったりすることも少なくありません。ご両親がまだ元気で判断力があるうちに、少しずつ一緒に片付けていくことができれば理想的ですが、タイミングを逃してしまうと、思い出に向き合うだけでも大きな負担になることがあります。
そして三つ目の理由は、空き家の価値は時間とともに確実に下がっていくという現実です。家は人が住んでいなくても、時間の経過とともに劣化していきます。風通しが悪くなれば湿気がこもり、カビが生えたり、木材が傷んだりします。庭の手入れがされていなければ雑草が生い茂り、建物全体の印象も悪くなってしまいます。
さらに、外壁や屋根などの老朽化が進めば、修繕や解体の費用が膨らむばかりでなく、売却を検討したときにも買い手が見つかりにくくなります。築年数が進み、建物の価値がゼロに近くなると、土地だけでの評価になることもありますが、その場合でも古家の撤去費用を買主側が負担しなければならないとなれば、売却のチャンスはより限られたものになるでしょう。
このように、手放すことを迷っている間にも、実家は少しずつ価値を失っていきます。少しでも状態が良いうちに、不動産会社に相談したり、活用の選択肢を探しておくことで、結果的に得られるものも多くなります。
早めに行動することで、経済的な負担を減らすだけでなく、精神的にもゆとりを持って進めることができます。大切な実家だからこそ、「いつか」ではなく「今できること」を始めてみることが、将来の安心につながる第一歩となります。
家財整理は自分でやるべきか、それとも業者に頼むべきか
実家じまいのなかでも、特に時間と労力が必要になるのが家の中の家財整理です。家具や電化製品、食器、本、衣類、アルバムなど、長年の生活で積み重ねられたものたちは、思っている以上に多く、それぞれに思い出が詰まっているため、ひとつひとつの扱いに迷いが生じることもあります。
いざ家を片付けようとしても、「何から手をつければいいのか分からない」「捨てていいのか判断がつかない」と感じる方は少なくありません。そのようなときに、自分で整理するか、業者に頼むかを判断するには、いくつかの視点から考えることが大切です。
たとえば、実家が今の住まいから近く、定期的に通える距離にある場合、家族や兄弟姉妹と協力して整理する方法が考えられます。ご両親が元気なうちであれば、一緒に思い出を語り合いながら進めることで、整理そのものが貴重な時間になることもあります。アルバムを見ながら話したり、古い品物について聞いたりしながら、少しずつ家の中を整えていく作業は、心の整理にもつながります。
一方で、実家が遠方にある、まとまった時間が取りづらい、家財の量が非常に多い、というような状況では、自分たちだけでの対応が難しくなってきます。また、感情的なつながりが強い品物が多く、手が止まってしまったり、捨てることに抵抗を感じて作業が進まなかったりすることもよくあります。そうしたときには、思い切って専門の整理業者に依頼するという選択肢も検討してみましょう。
現在では、遺品整理や空き家片付けを専門とする業者が全国に増えており、経験豊富なスタッフが必要に応じて作業を代行してくれます。要望に応じて仕分けや搬出、清掃まで対応してくれることが多く、スピーディーかつ効率的に整理を進めることができます。また、「形見として残したいもの」「写真や書類など重要なものを探してほしい」といった細かな要望にも対応してくれる場合があります。
不動産会社に売却や賃貸の相談をしている場合、その会社から信頼できる家財整理業者を紹介してもらえることもあります。実績のある業者と連携していることが多いため、安心して依頼できるのもメリットです。
ただし、業者に依頼する場合には当然ながら費用がかかります。物の量や家の広さ、作業内容によって金額は変わるため、事前に見積もりを取り、納得したうえで依頼することが大切です。作業日数やプランの内容もきちんと確認しておきましょう。
どちらの方法を選ぶにしても、忘れてはならないのは、家財整理の期間中も家の維持費は発生しているということです。税金、光熱費、保険料などは片付けが終わるまでずっとかかり続けるため、作業が長引くほど経済的な負担も増えていきます。そのためにも、整理作業は「できるだけ早く、無理のない方法で」進めるのが理想です。
家財の整理は、心の整理と深く結びついています。大切な人の記憶と向き合う時間でもありますので、無理をせず、自分や家族の状況に合ったやり方で、少しずつ前に進んでいけるとよいですね。大切なのは「ひとりで抱え込まないこと」です。信頼できる人の助けを借りながら、やさしく、ていねいに整理を進めていきましょう。
売却のタイミングと価値の現実
実家を手放すと決めたとき、多くの方が真っ先に気になるのは「この家はいくらで売れるのか」という点ではないでしょうか。長年大切に守ってきた家であればなおさら、「きっとそれなりの価値があるはず」と期待してしまうのも無理はありません。しかし実際に査定を受けてみると、思っていたよりもずっと低い金額を提示されて驚いたり、がっかりしたりすることがあります。
売却価格というのは、単に家の広さや立派さで決まるわけではありません。築年数、立地条件、周辺の市場動向、そして建物の状態といった複数の要素によって総合的に評価されます。たとえば、どんなに思い出が詰まった家であっても、築年数が古く、手入れがされていない場合は、査定価格が大きく下がってしまう可能性があります。また、設備が老朽化していたり、修繕が必要な箇所が多かったりすると、購入後のリフォーム費用が見込まれるため、買い手にとっての負担が増えると判断され、結果的に価格が下がるのです。
さらに、建物自体に価値がないとみなされた場合には、「古家付き土地」としての評価になることもあります。その場合、売るためには建物を解体して更地にしてから販売する必要があると考える方もいますが、ここでまた問題になるのが解体費用です。家の構造や立地にもよりますが、解体には数十万円から場合によっては数百万円の費用がかかることもあります。この費用を自己負担するのか、それとも買主が負担してくれるのかによって、売却の難易度も変わってきます。
こうした現実があるからこそ、売却を検討し始めたら、なるべく早めに不動産会社に相談することが大切です。家の状態が悪くなる前に、少しでも高く、スムーズに売るためには、早い段階で「現状の価値を知る」ことが第一歩になります。自分で思っている評価と、実際の市場価格とのギャップを正しく把握しておくことは、その後の選択肢を広げるためにも重要です。
また、売却以外の方法として、地域によっては空き家をリノベーションして活用する制度が設けられていることもあります。たとえば、地方自治体が運営する「空き家バンク」は、空き家を探している移住希望者や起業を目指す人たちに向けて、物件情報を提供する仕組みです。こうした制度を活用すれば、単に家を手放すだけではなく、地域貢献や新たな使い道につなげることもできます。
さらに、補助金制度を設けている自治体もあります。一定の条件を満たすことで、リフォーム費用の一部を負担してくれる場合もあるため、金銭面の負担を軽くすることができます。こうした情報は、各自治体の公式サイトなどで確認することができますし、地域に詳しい不動産会社に相談すれば、より具体的な提案を受けることができます。
売却には思ったよりも時間がかかることもあります。買い手がすぐに見つかるとは限らず、内覧対応や条件交渉、書類の準備など、想像以上に手間がかかるケースも少なくありません。そのため、「売りたい」と思ったときにすぐ動けるよう、準備を整えておくことが安心につながります。
大切なのは、「できるだけ高く売る」ことよりも、「納得できる形で手放す」ことです。思い出の詰まった家だからこそ、その価値を正しく知り、心残りのない形で次のステップへ進むためには、現実的な視点と柔軟な発想が欠かせません。売却は決して「終わり」ではなく、暮らしの流れを整えるための一つの区切りです。焦らず、少しずつ準備を進めていくことが、後悔のない選択へとつながっていきます。
法的手続きと制度改正にも注意が必要
実家を手放す、売却する、あるいは管理していくうえで、避けて通れないのが法的な手続きです。家というのは単なる物ではなく「不動産」という財産であるため、誰がその所有者で、どのような名義になっているかが明確でなければ、自由に売買したり貸したりすることができません。
まず、両親が亡くなられた後に実家を売却しようと考えた場合、必要になるのが「相続登記」です。これは、不動産の名義を亡くなった方から相続人へ移す手続きのことです。相続登記が済んでいなければ、その家はまだ法的には故人の名義のままであり、売却などの手続きを進めることができません。また、相続人が複数いる場合には、誰が所有するのかを決めるために話し合いが必要になります。兄弟姉妹との間で意見が食い違ったり、遺産分割がうまく進まなかったりすることで、実家の処分が長引いてしまうこともあります。
さらに、親がまだご存命であっても、認知症などによって判断能力が失われてしまうと、法律上の契約ができなくなります。たとえ子どもであっても、親の名義の家を勝手に売却することはできません。このような場合に備えて、「家族信託」や「成年後見制度」といった仕組みを事前に整えておくことが大切です。
家族信託とは、親が元気なうちに、自分の財産の管理や処分を信頼できる家族に託す制度です。この仕組みを使えば、親が認知症になった後でも、あらかじめ決めておいた信託契約に基づいて、家の売却などの対応ができるようになります。成年後見制度は、家庭裁判所を通して後見人を選び、本人の代わりに法律行為を行えるようにする制度ですが、柔軟さや費用面では家族信託のほうが扱いやすい場合もあります。
こうした制度は、親がまだ元気なうちに準備を進めなければ利用できません。認知症の診断が出てからでは、判断能力がないとみなされてしまい、契約を結ぶことができないためです。「まだ早いかも」と感じるかもしれませんが、話し合いができる今だからこそ、家族での相談を始める価値があります。
また、最近では法律の改正も進んでおり、相続や不動産に関するルールが変わりつつあります。2023年にスタートした「相続土地国庫帰属制度」は、管理できない土地を国に引き取ってもらえる新しい制度です。条件を満たせば、相続したくない不動産を手放すことができるようになりました。これは特に、遠方の実家を相続しても使い道がなく、維持費や管理の負担ばかりがかかるといったケースで、検討する価値のある選択肢です。
さらに、2024年からは「相続登記の義務化」が始まりました。これまで相続登記は任意でしたが、今後は相続によって不動産を取得した場合、原則として3年以内に登記を行わなければならなくなりました。これを怠ると、過料という罰金が科される可能性があります。知らずに放置してしまっていたという理由では済まされなくなってきているのです。
こうした制度改正は、空き家問題の増加を背景に、国が相続不動産の管理を明確化しようとしている流れの一環です。私たち一人ひとりがその流れを理解し、必要な準備を進めることが求められています。
実家をどうするかという問題は、感情や家族の関係とも深く関わるため、簡単に答えが出せないテーマです。ですが、法的な手続きや制度のことを知っておくだけでも、安心して次のステップを踏み出すことができます。
今できる小さな準備が、将来の大きな安心につながります。焦らず、でも確実に、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ
実家じまいは、ただモノを片付けたり、不動産を売却したりするだけの作業ではありません。そこには、家族の歴史や、日々の暮らしの記憶、温かな思い出がたくさん詰まっています。そのため、いざ手放そうとするときには、心の整理が追いつかず、迷いや戸惑いが生まれるのも自然なことです。
けれども、実家を空き家のまま放置してしまうと、思っている以上にさまざまな問題が積み重なっていきます。経済的な負担だけでなく、建物の老朽化や法的な手続きの煩雑さ、家族間の話し合いがスムーズに進まないことなど、後になって悩む要素が増えてしまいます。
だからこそ、「まだ元気なうちに」「問題が起きる前に」少しずつでも動き始めることが大切です。急ぐ必要はありませんが、今のうちから将来を見据えて準備しておくことで、いざという時に慌てることなく、落ち着いて対応できるようになります。できることからで構いません。家の中を見直したり、ご家族と今後のことについて話してみることから始めてみましょう。
実家じまいを進めていく過程には、たしかに手間も時間もかかりますが、それと同時に、今までの暮らしに感謝し、新しい一歩を踏み出す機会にもなります。過去を大切にしながら、これからの暮らしに必要なものを見極める。その作業こそが、心を整え、自分や家族にとって本当に必要な未来へつながっていくのです。
もしひとりで抱えるのが難しいと感じたときは、信頼できる専門家のサポートを受けることで、安心して前へ進むことができます。誰かに相談するだけでも、気持ちが少し軽くなるかもしれません。
実家じまいは、終わりではなく、新しい暮らしへのはじまりです。そこに詰まった想いを大切にしながら、あなたらしいペースで、やさしく丁寧に歩んでいけますように。
未来は、今の一歩からつながっていきます。
