高齢者も自立したいと考えています。しかし一度心身機能が低下すると、家族や介護職員によって危険だからとさまざまな行動を制限されるようになります。居室内での行動は自分で行うように言われますが屋外での行動となると危険だと制限されるのです。
ただし過剰な安全重視の考え方は危険です。屋外での行動を制限されてしまうと「経済的自立」以上のゴールを目指すことができなくなるからです。それどころか「軟禁」と大差なくなってしまうのです。
制限してしまうより、徐々に広く、高く、大きく、ゴールや目標をシフトアップしていくほうが親御さんにとっても家族にとっても誰にとってもプラスが多く幸せに近づきます。今回は、高齢者でも幸せになるゴールと目標設定の方法についてご紹介します。ケアプラン作成にも役立てることができます。
もし親御さんが意欲を失ってしまっているようでしたら、『リハビリには意欲が必要!高齢者のやる気を引き出す11のポイント』『やる気をもっと引き出す!高齢者のモチベーションを維持する8のコツ』もチェックしてみてください。
Contents
1、身辺的自立をゴールに、生理的欲求を満たす
病気や老化を原因に身体が不自由になります。食事、睡眠、洗面、入浴、着替え、排泄などの日常生活上の動作ができなくなってしまうのです。
この状態にある高齢者はまず「身辺的自立」をゴールに「身辺的自立」へと向かう目標を設定することになります。「身辺的自立」ができていないと「生理的欲求」が満たされていませんので、経済的、社会関係的、精神的、人格的な自立に目を向ける余裕はありません。
例えばおしっこを我慢、または漏らしてしまった状態にあるときに、お金の心配(安全の欲求)や家族との関係性(社会と愛の欲求)、他者から尊敬されているかどうか(承認の欲求)、悩んでいる余裕はないはずです。
具体的には、医療保険や介護保険サービスによるリハビリなどのサービスを利用して専門的な指導をもとに「身辺的自立」を目指すことになります。身体が不自由な状態は完全に治ることはまずありませんが、自分でもできることを増やしていくのです。
子であるあなたも、親御さんのためにリハビリの専門家の助言を参考にしつつ「身辺的自立」を目指し生活リハビリの支援します。
目標はもちろん「身辺的自立」というゴールに近づけるような「スプーンで食事できるようにする」「食べこぼしを半分に減らす」「尿パッドを濡らす回数を平均5回から4回に減らす」などになります。
手段は安全に目標を達成できる内容であればなんでも構いません。トイレに間に合わず尿パッドを濡らすことが多いのであれば、トイレへの移動、車椅子からトイレへの移乗がスムーズになる手段を考えます。例えば「一日10回屈伸する」とか「三日に1回近所の公園へ散歩する」などです。
「身辺的自立」ができるようになり、親御さんがもし「生理的欲求」を満たすことができるようになってくれば、自然と次の段階へ目が向くようになってきます。「安全の欲求」が気になってくるのです。身体が不自由なりに多少の介助を受けながらでも日常生活がある程度自分でできるようになってきたなら、次のゴールである「経済的自立」に移ります。
2、経済的自立をゴールに、安全の欲求を満たす
身体が不自由になっていない親御さんの場合ここから始めます。また「身辺的自立」をゴールできた方の次のゴールもここになります。生活保護を受けている高齢者でなければ経済的自立はあまり関係ないように思われがちですがそうではありません。
出典:平成24年度 「高齢者の健康に関する意識調査結果」内閣府
65歳を超えると多くの方が定年退職をしています。しかし約6割もの高齢者が65歳を超えても働きたいと考えています。また国の政策「アベノミクス 新・三本の矢」の一つ、新・第三の矢の具体的内容の2つ「働ける年齢を上昇させるため健康寿命を延ばすための機能強化」「高齢者のための仕事の提供」が行われています。
そこで、高齢者であっても最終的には再雇用を目指すことが理想です。年金は年金としてさらなる「経済的自立」を目指すのです。「経済的自立」が満たされていない状態の高齢者は社会関係的、精神的、人格的な自立には目を向けません。
社会との関係性(社会と愛の欲求)、他者から尊敬されているかどうか(承認の欲求)に悩む前に、お金や暮らしの水準への不安が大きいのです。
具体的には、医療や介護保険サービスによる訪問介護、高齢者向けサービスの食事宅配サービスなどを利用して安全や健康の確保します。それら安全や健康などの生活費を全て親御さんだけでまかなえる状態を目指すのです。年金だけで足りている方もいるかもしれませんが親御さんの希望があれば、再就職も視野に入れます。
今では国の政策も手伝ってくれているので高齢者それぞれの能力に合わせた仕事を紹介してくれる仕組みができています。ハローワークやシルバー人材センターなどで高齢者でも仕事の紹介が受けられます。民間の企業や人材派遣業者でも以前に比べ高齢者向けの仕事が増えています。
子であるあなたは親御さんのために介護の専門家の助言を参考にしつつ「経済的自立」が満たされるような支援をしていくことになります。保険会社、介護保険サービス、配食サービスなどの契約、ハローワークやシルバー人材センターなどへの登録、研修場所への送迎などです。
目標はもちろん「経済的自立」というゴールに近づけるような「医療保険の掛け金を増やし、入院の備えを強化する」「生活費、介護保険サービス費の全てを自分で稼ぐ」などになります。
手段は安全に目標を達成できる内容であればなんでも構いません。「仕事の研修に参加する」「月に1回派遣の仕事をする」などです。
「経済的自立」ができるようになり、親御さんがもし「安全の欲求」を満たすことができるようになってくれば、自然と次の段階へ目が向くようになってきます。「社会と愛の欲求」が気になってくるのです。多少の介助や支援を受けながらでも経済的な自立ができるようになってきたなら、次のゴールである「社会関係的自立」に移ります。
3、社会関係的自立をゴールに、社会と愛の欲求を満たす
「経済的自立」にゴールでき「安全の欲求」を満たされた高齢者は「社会関係的自立」を目指します。ただ働くだけでなく会社に必要とされたり、ボランティア活動を行ったり、子供や孫に自分の得意な分野を教えてあげたり、恋愛したりします。
人生をもう一度繰り返す形です。「社会関係的自立」が満たされていない状態の高齢者は精神的、人格的な自立には目を向けません。必要とされればされるほど嬉しくて、楽しくて、それどころではありません。
社会との関係性(社会と愛の欲求)が満たされない限り、他者から尊敬されているかどうか(承認の欲求)に悩むことはありません。
具体的には、家族や近隣のための活動、介護保険サービスによるデイサービス、ボランティア活動などに積極的に参加することになります。
子であるあなたは親御さんのために介護の専門家の助言を参考にしつつ「社会関係的自立」が満たされるような支援をしていくことになります。仕事やボランティアの情報提供支援、職場やボランティアへの交通手段の確保などです。
目標はもちろん「社会関係的自立」というゴールに近づけるような「月に一度ありがとうと言われる」「月に一度相談を受ける」などになります。
手段は安全に目標を達成できる内容であればなんでも構いません。「ボランティアに参加する」「家族、仲間、ホームヘルパーなどの話に耳を傾け、受容し、力になる」などになります。
「社会関係的自立」ができるようになり、親御さんがもし「社会と愛の欲求」を満たすことができるようになってくれば、自然と次の段階へ目が向くようになってきます。「承認(尊重)の欲求」が気になってくるのです。多少の介助や支援を受けながらでも社会関係的自立ができるようになってきたなら、次のゴールである「精神的自立」に移ります。
4、精神的自立をゴールに、承認(尊重)の欲求を満たす
「社会関係的自立」にゴールでき「社会と愛の欲求」を満たされた高齢者は「精神的自立」を目指します。元気だった以前までの親御さんは「承認(尊重)の欲求」が満たされた状態、または「自己実現」を目指していた状態にあったかと思います。ここまで戻ると親御さんはほぼ元の親御さんです。自分の意思で選択し行動するようにもなっています。
そのためあなたが主体的に親御さんへの支援をすることはもうありません。しかし高齢者の老化や病気によって一度心身状態が悪化された方がここまで回復することはかなり稀です。無理ではありませんが「社会関係的自立」まで回復する方ですらほとんどいない状態です。ここまで戻るまでには家族や地域、介護保険制度などの支援が必要です。
もちろん心身状態が大きく悪化した方でなければ「精神的自立」を目指すこと、そこまで難しいものではありません。相談されたら自分に無理ない範囲で協力、支援することをお勧めします。その方が長く元気で活躍してくれます。
この段階にいる親御さんの気になる対象は周りからの評価、尊敬などです。会社やボランティア、サークルの仲間、家族、介護サービスなど、それぞれの居場所で結果を重視しだすのです。どうしたらよりよく改善できるかなど率先して課題と向き合って行くことになります。
課題に対する解決方法を探し、足りない部分は努力して、技術や能力を得ることで補おうとするのです。子であるあなたは相談された際にそれらの支援をしていくことになります。課題解決のための強力です。もちろん自分が無理なくできる範囲で構いません。
この頃になると目標は自分で決められるようになってくるかと思いますが、もしアドバイスを求められたなら「精神的自立」というゴールに近づけるような「街から、ポイ捨てなどのゴミを無くす」「街の事故件数を減らす」「仕事の具体的な目標を設定する」などになります。
手段は安全に目標を達成できる内容であればなんでも構いません。「ボランティアに積極的に参加することで仲間を集い、計画を提案し、ゴミ拾いを行う」「学校の登下校の旗持ち、子どもの遊び場の定期巡回をする」などになります。
ある程度他者からの評価を得られるようになると、他人の評価や視線が気にならなくなり自己評価を上げるための努力をするようになります。そのため今まで以上に自己研鑽するようになります。
「精神的自立」ができるようになり、親御さんがもし「承認(尊重)の欲求」を満たすことができるようになってくれば、自然と次の段階へ目が向くようになってきます。「自己実現の欲求」が気になってくるのです。多少の介助や支援を受けながらでも「精神的自立」ができるようになってきたなら次のゴールである「人格的自立」に移ります。
5、人格的自立をゴールに、自己実現の欲求を満たす
「精神的自立」をゴールできた「承認(尊重)の欲求」を満たされた高齢者は「人格的自立」を目指します。自分で考え選択し仲間、家族、道具、お金、自分の能力をも含め、全ての資源を最大限活用し世界に恩返しすることを考えるようになります。
具体的には「ボランティアサークルを立ち上げる」学校が少ない国に「学校を建てる」などの活動に目を向けるようになります。「生理的欲求」「安全の欲求」「社会と愛の欲求」「承認(尊重)の欲求」の全てが満たされている方ですので、今度は自分のことではなく地域の人や国、世界の人の幸せを考えるのです。
家族であるあなたのやることはその親御さんに支援を求められた際にだけ協力すれば足ります。親御さんが「人格的自立」し「自己実現の欲求」を満たそうとしているのであれば、子であるあなたもそれに近い状態、または同じ状況にあるはずです。生活がとても充実し楽しく幸せな毎日であるはずです。
いかがでしたか。今回は、高齢者でも幸せになるゴールと目標設定の方法についてご紹介しました。これなら親御さんも家族も幸せになりますし、ケアプラン作成にも役立てることができます。ぜひ参考にしてみてくださいね。