制度だけに頼らない新しい介護の形 | 保険外サービスが支える家族の暮らし

高齢化が進むなかで、介護の形は多様化しています。かつては家族の中で自然に担われていた介護も、いまでは働きながら、あるいは遠く離れて暮らしながら支える時代になりました。誰かの手を借りながら続けていくことが当たり前になりつつある一方で、「自分の家庭に合う支援の形が見つからない」「制度の枠からこぼれてしまう部分がある」と感じている方も少なくありません。

介護保険制度は多くの人を支える大切な仕組みです。けれども、現実の生活には、制度の想定を超えた細やかな支援が必要になることがあります。たとえば、家族の気持ちに寄り添って話を聞いてほしいとき、通院や買い物に付き添ってほしいとき、あるいは医師の説明を一緒に聞いて整理してほしいとき。そんな「ちょっと助けてほしい」場面は、日常のなかにたくさん存在しています。

そうしたときに注目されているのが「保険外サービス」です。これは介護保険の対象外となる支援を、利用者や家族が自費で受けられる仕組みです。制度では時間や内容に制限がありますが、保険外サービスでは、もう少し自由に、利用者の希望に合わせた支援を組み立てることができます。看護師や介護スタッフが柔軟に対応し、制度では届きにくい心のケアや生活面のフォローまで行うことができるのです。

介護を続けていると、「自分が我慢すれば」「家族でなんとかすれば」と考えてしまうことがあります。しかし、介護は長い時間をかけて続く営みです。無理をすれば、いずれ支える側が疲れてしまいます。だからこそ、頼れる仕組みをあらかじめ知り、必要なときに使えるようにしておくことが大切です。

保険外サービスは、そうした“安心の選択肢”のひとつです。公的制度に加え、生活を支えるもう一つの柱として、利用者や家族の心をそっと支えます。介護をする人もされる人も、少しでも心穏やかに過ごせる時間を増やすために。ここでは、実際の活用事例をもとに、保険外サービスがどのように暮らしを支えているのかを丁寧に見ていきましょう。

寂しさに寄り添う支援が安心を生む

心のケアは介護の土台になる

介護の現場では、食事や入浴などの身体的なサポートと同じように、心のケアがとても大切です。特に一人暮らしの高齢者や、施設で暮らしている方にとって「誰かが自分を気にかけてくれている」という感覚は、心の支えになります。厚生労働省の調査（令和5年版高齢社会白書）によれば、65歳以上の約5人に1人が「日常的に孤独を感じる」と答えています。孤独感は心の健康だけでなく、認知症の進行や生活意欲の低下にも影響することが分かっています。

孤独な状態が続くと、わずかな体調の変化にも強い不安を感じてしまうことがあります。施設では「何かあったのでは」と不安になった利用者が、何度もナースコールを押してしまうことがあります。職員はその都度対応に追われ、ご家族も「迷惑をかけているのでは」と胸を痛めます。こうした小さな心の負担が積み重なると、本人も支える側も疲れを感じるようになります。

保険外サービスがもたらす心の安定

こうした課題を和らげる手段として注目されているのが、保険外の看護サービスです。これは介護保険の範囲外で、自費で利用できる支援です。看護師や介護スタッフが定期的に訪問し、体調を確認しながら日々の悩みや不安を聞き取ります。時間をかけてゆっくり話すことで、心が落ち着き、不安や孤立感が和らぎます。

国立長寿医療研究センターの調査によると、高齢者が週に数回でも「誰かに話を聞いてもらう時間」を持つと、うつ傾向や不安が明らかに減少するという結果が出ています。会話や交流は薬のように即効性があるものではありませんが、気持ちを整え、生きる意欲を回復させる効果があります。まさに“心のリハビリ”といえるでしょう。

実際に、ある施設では保険外サービスを取り入れ、看護師が短時間でも毎日訪問するようにした結果、利用者のナースコール回数が大幅に減少しました。「話を聞いてもらえる」という安心感が生まれ、利用者が穏やかに過ごせるようになったのです。ご家族も「信頼できる人がそばにいる」という安心感を得て、以前より落ち着いた気持ちで仕事や生活に向き合えるようになりました。

制度では届かない“心のすき間”を埋める

介護保険のサービスは、一定のルールに基づいて提供されます。訪問介護では、掃除や食事介助、入浴支援といった具体的な作業が中心で、時間も限られています。そのため、利用者の話をじっくり聞く時間を確保することが難しいのが現実です。職員がどれほど思いやりを持っていても、制度上の制約があるため、十分に心のケアを行えないことがあります。

保険外サービスは、その“制度のすき間”を埋めるための存在です。訪問時間や内容を柔軟に設定でき、家族や利用者の希望に合わせたサポートが可能です。たとえば、

• 週に数回だけ短時間訪問し、会話を中心に行う

• 夜間や休日など、保険サービスの対象外の時間に利用する

• 体調の不安が強い日にだけ依頼する

といった使い方ができます。必要な時に必要な分だけ依頼できるのが大きな特徴であり、心身の負担を軽減する現実的な方法といえます。

専門職だからこそできる「心と体の見守り」

保険外サービスの強みは、単なる話し相手ではなく「専門職による心理的見守り」を行える点にあります。看護師は医療的な知識を持ち、体調の変化や小さなサインを見逃さずに対応できます。心の状態と身体の状態は密接に関係しており、どちらかが崩れるともう一方にも影響を及ぼします。そのため、心と体の両面から支えることが重要です。

万が一、体調に異変が見られた場合も、医療機関との連携が取りやすく、早期対応が可能になります。介護保険サービスでは医療判断ができない場合が多いですが、保険外の看護サービスなら、医療的な知識を活かした見守りが行えます。

以下の表は、介護保険内サービスと保険外サービスの違いを簡単にまとめたものです。

このように、保険外サービスは時間や内容に縛られず、生活の中で本当に必要な支援を受けられる柔軟さがあります。特に、孤独を感じやすい方や、不安が強い方にとっては「心の安定剤」となる存在です。

つながりが生きる力を生む

介護において最も大切なのは、安心して過ごせる時間を増やすことです。身体を支えるだけではなく、「心が落ち着く空間」をつくることが、結果的に健康の維持にもつながります。人は、誰かとつながり、理解されていると感じるとき、自然と生きる力を取り戻します。

保険外サービスは、その“つながり”を取り戻すための新しい手段です。制度の枠を越えて、人と人との温かい関係を築くことを目的としています。心のケアを必要としているのは、高齢者だけではありません。支える家族もまた、寄り添いや安心を必要としているのです。

介護を「我慢」や「義務」として続けるのではなく、「安心して支え合う関係」として築くために。保険外サービスは、その橋渡し役としてこれからますます重要な存在になっていくでしょう。

通院付き添いと生活支援で家族の負担を軽減

ダブルケア世帯を救う専門的なサポート

保険外サービスが広げる介護の選択肢

介護の現場では、「介護保険だけでは足りない」と感じる場面が少なくありません。制度で認められた支援は限られており、時間や内容に制約があるため、生活の細部まではサポートが行き届かないことがあります。そんなときに頼りになるのが、保険外サービスです。

保険外サービスとは、介護保険制度の対象外となる支援を、自己負担で自由に受けられる仕組みです。厚生労働省によると、近年この分野は急速に広がっており、高齢者世帯の約15％が何らかの形で利用していると報告されています。介護保険だけに頼るのではなく、保険外の選択肢を取り入れることで、介護生活に柔軟性と安心感が生まれます。

制度の枠を越えて叶えられる「希望の介護」

保険外サービスの最大の特徴は、利用者や家族の希望に合わせて内容を自由に組み立てられる点です。介護保険では「できること」と「できないこと」が明確に定められていますが、保険外サービスなら、その枠を超えてより細やかなサポートが可能になります。

たとえば、通院の付き添いだけでなく、診察後に薬局や買い物へ立ち寄る支援。あるいは、リハビリ後のフォローとして自宅での運動や生活習慣を見守る支援。さらには、季節ごとの外出や趣味活動のサポートまで、生活に寄り添う柔軟な対応ができます。

また、孤立しがちな高齢者にとっては、「会話を楽しむ時間」や「一緒に食事をする時間」など、心を満たす関わりが大切です。東京都健康長寿医療センター研究所の調査によると、定期的な対話や外出支援を受けている高齢者は、そうでない人に比べて生活満足度が約1.5倍高いと報告されています。これは、保険外サービスが単なる“支援”ではなく、“生活の質を上げるケア”として機能していることを示しています。

費用と利用のポイントを理解する

保険外サービスを利用する際は、費用や内容をしっかり確認することが大切です。介護保険サービスは公費で一部がまかなわれますが、保険外サービスは基本的に全額自己負担です。そのため、事前に料金体系を理解し、無理のない範囲で利用計画を立てることが重要です。

一般的な料金の目安は、1時間あたり3000〜6000円前後です。ただし、サービス内容や地域によって差があります。最近では、1回単位で依頼できる「スポット利用」や、月額制の「定期プラン」など、家庭の状況に合わせて柔軟に選べる仕組みも増えています。

また、費用面だけでなく、信頼できる事業者を選ぶことも大切です。選ぶ際には以下のような点を確認すると安心です。

• 介護福祉士・看護師など、資格を持つスタッフが在籍しているか

• 過去の利用者の評価や口コミに信頼性があるか

• 料金体系が明確で、追加料金が発生しない仕組みになっているか

• トラブル対応や相談窓口が整備されているか

こうした基本的な確認を行うことで、安心して利用できる事業者を見極められます。

サービス品質を守るための仕組み

保険外サービスは多様化が進んでいる一方で、サービスの質にばらつきがあるという課題も指摘されています。そこで、最近では質の保証や安全性の向上を目的とした認証制度が整備されつつあります。

たとえば、介護関連サービス事業協会が実施する「100年人生サポート認証」は、一定の基準を満たした事業者だけが取得できる制度です。この認証では、利用者への説明責任、従業員教育、法令遵守、緊急時対応など、複数の項目を総合的に審査します。これにより、利用者は安心して事業者を選ぶことができ、質の高い支援が広がりつつあります。

同様に、自治体レベルでも信頼性を高める取り組みが始まっています。東京都や神奈川県などでは、「地域密着型介護支援事業者リスト」を公開し、認可を受けた事業者を一覧で確認できる仕組みを設けています。こうした制度の整備によって、保険外サービスの利用ハードルは年々下がりつつあります。

保険と保険外の「ハイブリッド介護」

保険外サービスをうまく取り入れることで、介護はより柔軟で快適なものになります。介護保険の枠内で基本的な支援を受けつつ、必要な場面だけ保険外サービスを追加する。この「ハイブリッド介護」という考え方が、近年注目されています。

たとえば、介護保険で日常の生活支援を受けながら、保険外で夜間の見守りや通院同行を依頼するケースがあります。あるいは、介護保険でリハビリを行い、その後のフォローアップを保険外で継続することで、より安定した回復を目指すケースもあります。

このように、両方の制度を上手に組み合わせることで、家族の負担を減らしながら、利用者本人にとって最も安心できる環境を整えることができます。

以下は、介護保険と保険外サービスを併用した場合の特徴をまとめたものです。

「我慢する介護」から「共に生きる介護」へ

保険外サービスは、単なる補助ではなく、介護の新しい形を生み出す存在です。介護保険の枠を超えて、利用者や家族の思いを反映した支援ができるようになったことで、「我慢する介護」から「共に生きる介護」へと発想が変わりつつあります。

介護は、支える側と支えられる側が共に暮らしをつくる営みです。保険外サービスをうまく活用することで、介護をより穏やかに、そして前向きに続けることができます。制度に縛られず、自分たちに合った支援を選べる社会こそが、これからの時代に求められる本当の安心ではないでしょうか。

まとめ

介護の現場では、制度だけでは支えきれない瞬間が数多くあります。人の心や生活は一人ひとり異なり、その多様なニーズをすべて制度の枠で満たすことは難しいのが現実です。保険外サービスは、その“見えない隙間”を埋める存在として、静かに、けれど確実に多くの家庭を支えています。

寂しさに寄り添い、通院の不安を和らげ、遠距離で介護を行う家族をサポートする。こうした支援は、単なる「サービス」ではなく、人と人とをつなぐ新しい形の支え合いです。介護保険で補えない部分に柔軟に手を差し伸べることができるのは、保険外サービスならではの強みです。そこには「制度に合わせた介護」ではなく、「暮らしに合わせた介護」という発想があります。

介護を続けるうえで、最も大切なのは「一人で抱え込まないこと」です。介護は家族だけの責任ではなく、社会全体で支え合うものです。信頼できる専門職や地域のサービスをうまく取り入れることで、心と時間に少しの余裕が生まれます。その余裕が、笑顔で過ごす日々を取り戻すきっかけになります。

厚生労働省の調査によると、介護をしている人の約6割が「周囲に相談できる相手がいない」と答えています。誰かに話を聞いてもらうこと、支援を受けることは決して甘えではありません。むしろ、介護を長く続けていくために欠かせない大切な選択です。

保険外サービスは、その選択肢を広げてくれます。利用者本人の希望を尊重し、家族の暮らしを守る仕組みとして、これからますます重要な役割を果たしていくでしょう。

介護は「助ける」だけでなく、「共に生きる」営みです。支える側も支えられる側も、無理をせず、互いの生活や心を大切にできる関係こそ理想的な介護の形です。少し立ち止まって、「今の介護に足りないものは何か」「どんな助けがあれば心が軽くなるか」を考えてみてください。

そして、もし心のどこかに迷いや疲れを感じているなら、保険外サービスという新しい選択肢に目を向けてみましょう。介護をより穏やかに、そして前向きに続けるためのきっかけが、きっとそこにあります。あなたの優しさや努力が報われる形を、一緒に見つけていける社会へ。その一歩を、今日から踏み出してみてください。